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人工知能による仏顔の様式解析とその系譜に関する研究

2025.08.29
令和6年度 学際共創プロジェクト【デジタルヒューマニティ部門】

人工知能による仏顔の様式解析とその系譜に関する研究

研究代表者: 藤岡 穣(人文学研究科)
研究分担者: 長原 一(IDS)、中島 悠太(IDS)


研究の背景

美術史研究の根幹の一つには、作者・流派・地域・時代などによる類型的な表現に注目する様式研究があります。ところが、そもそも様式を類型化する際には、作品の個別性が捨象され、他の類型との相対的な比較が必要となります。また、美術作品であるがゆえに、その類型化においては、意味や機能、精神性といった要素が意識されることも多く、その結果として抽象化や恣意性、主観が介在し、様式の定義に曖昧さが生じてしまいます。様式研究においては、このような曖昧さをいかに克服するかが大きな課題となっています。

仏像研究において、ある仏像がいつ、どこで制作されたのかという問いは、最も基本的かつ重要な問題です。しかし、多くの仏像は、制作年代を示すテキスト情報を持たず、伝来を含む場所の属性すら明らかでない場合もあります。そのため、この問いに対する答えは、従来、多くの場合において研究者の様式観に基づいた推定に依存してきました。しかしながら、前述のとおり、様式観には恣意性や主観が含まれるため、研究者によって見解に違いが生じるだけでなく、同一の研究者の中でも判断に揺らぎがあり、迷うことも少なくありません。

仏像研究の基盤整備は着実に進展しており、たとえば日本の仏像については、『日本彫刻史基礎資料集成』(中央公論美術出版、1966年〜現在)により、平安時代から鎌倉時代にかけての基準作例の詳細なデータが順次公刊されています。他の時代の仏像についても基礎資料の公開が進んでおり、研究の基盤が形成されつつあります。中国の仏像についても、各地の石窟寺院における総合調査の報告書や、近年発掘された仏像を含む博物館所蔵品の目録が刊行されており、形式研究に基づく編年の試みも見られます。さらに、東南アジアや南アジアの仏像についても、欧米やオーストラリアの研究者を中心に、着実な研究の蓄積が進んでいます。

しかしながら、いまだに研究者による様式観の相違は解消されておらず、造像銘記などによって制作事情が明らかでない仏像の位置付けや類型的把握については、かなりのばらつきが残っています。

研究の目的

本研究では、こうした様式研究の曖昧さを改善・解消するために、AI(人工知能)の活用を試みます。十分な学習を経たAIは、仏像同士の類似性を識別し、仏像の制作年代・地域・作者などを、相当の確度をもって推定できると考えられます。AIの導入により、従来の様式研究に客観的な視点をもたらすことが期待されます。

本研究は、決して単にAIを活用することや、AIにすべてを委ねることを目的とするものではありません。むしろ、AIによって識別された類似関係や推定された制作年代・地域などの情報を、これまでの仏像研究にフィードバックすることを目的としています。

本研究の核心をなす学術的な「問い」は、AIによる推定と従来の研究における推定とを照合し、必要に応じて各仏像の位置付けを更新すること、さらにそれを踏まえて、インドから日本に至る仏像の伝播や、地域ごとの仏像の変遷、さらには作者などの諸系譜を再検証することにあります。そして、これらの研究成果を社会に実装し、広く活用していくことも本研究の重要な目的の一つです。

本年度の成果について、詳しくは活動報告書(PDF)をご覧ください。