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強毒性ウィルスとヒトタンパク質間相互作用のデータベースを安全・迅速に構築する

2025.12.05
令和6年度 学際共創プロジェクト【バイオサイエンス部門・生命システム領域】

強毒性ウィルスとヒトタンパク質間相互作用のデータベースを安全・迅速に構築する

研究代表者: 河口 真一(生命機能研究科)
研究分担者: 甲斐 歳恵(生命機能研究科)、伊達 進(D3センター)


研究の背景

生体内のタンパク質やメッセンジャーRNAなどの成分を網羅的に同定・定量する技術が発展し、大量のデータが蓄積されることで、「デジタル生物学」としての新たな領域が開拓されつつあります。さらに、それらの相互作用を包括的に解析したインタラクトーム情報は「デジタル生物学v2.0」とも呼ばれ、生命科学における基盤的な情報リソースとしての活用が期待されています。

タンパク質は、そのアミノ酸配列に基づき特異的な立体構造を形成し、表面の化学的性質が複合体形成において重要な因子となります。これまで、タンパク質の立体構造予測は困難とされてきましたが、近年、DeepMind社が開発したAlphaFoldプログラムにより、高精度な構造予測が可能となりました。さらに、AlphaFold2は複数のタンパク質による複合体構造の予測も可能としており、複合体形成の研究への応用が進められています。

本研究では、コンピュータ予測と実験が困難な毒性タンパク質の研究を進めるため、強毒性ウィルスであるクリミア・コンゴ出血熱ウィルス(CCHFV)のタンパク質に注目しました。CCHFVはアフリカ、アジア、ヨーロッパの一部で発生しており、主にマダニを介して感染します。感染者には重篤な症状が現れ、致死率は10~40%にも達します。

CCHFVのゲノムにコードされるNPタンパク質は、ウィルスRNAへの結合やウィルス粒子内へのパッキングの役割を担うほか、ヒト細胞においてアポトーシス(細胞死)を誘導することが報告されています。NPタンパク質は482アミノ酸残基から構成され、その単独の立体構造はすでに明らかとされています。Headドメイン(N末端およびC末端領域)とStalkドメイン(中央領域)からなる2つのドメインで構成されています。NPタンパク質がヒトの細胞内でどのようなタンパク質と結合するのかを明らかにすることは、CCHFV感染症のメカニズムを理解する一助になると期待されます。

研究の目的

細胞内の生化学反応は主にタンパク質によって触媒されますが、これらの機能は多くの場合、タンパク質複合体を形成することによって制御されています。本研究では、強毒性ウィルスであるCCHFVのNPタンパク質とヒトタンパク質との相互作用を網羅的に予測し、データベース化することを目的とします。

これまで、タンパク質複合体の構造解析には、タンパク質の単離精製を行い、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡解析などの手法を用いる必要がありました。これらの方法は信頼性が高いですが、解析に時間と労力がかかるという課題がありました。一方で、AlphaFold2を用いた予測は信頼度に課題があるものの、迅速なスクリーニングを行うことが可能です。

本研究では、相互作用の可能性が高いと判断されたタンパク質複合体について試験管内で実験的検証を行い、安全性と信頼性を確保します。この際、毒性・感染性の強いタンパク質試料を細胞を用いて調製する代わりに、転写・翻訳系を用いた無細胞的手法で全工程を進めます。このように計算機科学と無細胞実験を組み合わせることで、ウィルスとヒトタンパク質間の網羅的な相互作用情報(インタラクトーム)を安全かつ迅速に構築する点が本研究の独創的な特徴です。

本年度の成果について、詳しくは活動報告書(PDF)をご覧ください。