令和6年度 学際共創プロジェクト【人間総合デザイン部門】
アイトラッキングシステムを用いた歯の色調決定に対する視認行動の解析
研究代表者: 若林 一道(歯学研究科)
研究分担者: 田中 美裕、有田 まどか、内田 葵、西山 貴浩、西村 正宏(歯学研究科)
中村 亨(基礎工学研究科)、野村 泰伸(京都大学大学院 情報学研究科)
研究の背景
審美歯科の研究および臨床において、歯の白さは笑顔の魅力に対する満足度に直結すると言われており、重要な評価項目となっています。歯を白くする方法として、歯を切削した後にセラミッククラウンやラミネートベニアを用いる歯冠補綴治療や、過酸化水素や過酸化尿素といった薬液を用いるホワイトニングが一般的に行われています。
歯冠補綴治療では、隣接する歯や顔貌と調和した色調の補綴装置を製作する必要があり、その際には色見本としてシェードガイドが広く使用されています。ホワイトニングでは、施術前後における効果の評価として用いられます。これらの評価は、患者と歯科医師が同時にシェードガイドを確認しながら行われるため、歯の色情報を共有するコミュニケーションツールとしても重要な役割を果たしています。
しかしながら、歯やシェードガイドの色調は単一ではなく、グラデーションを有しており、切端から歯頸部にかけて段階的に変化しています。さらに、半透明性や不均質性、光拡散性など、複雑な光学的性質を持っています。そのため、照明条件や注目する箇所の違いにより、歯科医師と患者間で歯の色調の認識にズレが生じる可能性があります。また、歯科医師と歯科技工士の専門分野の違い、あるいは熟練歯科医師と若手歯科医師などの経験年数の差による認識の違いも考えられます。
これらの課題を明らかにする手法として、アイトラッキング技術があります。アイトラッキングは、眼球の動きを記録し、分析することで人の視線情報を可視化する技術です。この技術により、視線の注視部位、順序、時間を計測することが可能であり、特に無意識の視線移動の解析に優れています。本技術は都市環境、マーケティング、教育、スポーツ、医療、心理学、認知科学などの分野で幅広く応用されています。
研究の目的
本研究では、アイトラッキングシステムを用いて歯の色調の認知・判断、およびその処理方法を解析することで、歯科医師と患者間の認識差や経験年数の違いによる色調決定の差を定量的に明らかにすることを目的とします。アイトラッキング技術は歯科医療分野においても応用が進められており、食形態の嗜好評価、不正咬合の印象評価、パノラマX線画像の注視部位解析などに利用されています。しかしながら、グラデーションを有する歯の色調をどのようなプロセスで視認しているのかを解析した研究はこれまで行われていません。本研究により、歯科医療の改善や審美歯科学分野への貢献が期待されます。
本年度の成果について、詳しくは活動報告書(PDF)をご覧ください。