CALLシステム
TA(Teaching Assistant)の声
西村 健作(大学院基礎工学研究科 物質創生専攻)
まさにSFの世界。
CALLシステムを利用したドイツ語授業のTAを担当して今年で二年目になります。私の担当している授業は、先生が作製した新世界というソフトを利用し、ネットを利用して2教室に分かれた遠隔授業を行うというものです。
この遠隔授業の最も大きな利点は、生徒が時間空間の制約を受けず、いつでもどこでも好きなときに授業が受けられる、という点です。現在は単位制度の関係で、いつでもどこでも、ということにはなっていませんが、いずれ到来するであろうネットを利用した遠隔授業の未来に向け、大学の指定された授業内で実験的に二分室での遠隔授業を行っています。
授業では、隔週で先生とドイツ語担当のTAさんのいる第一教室と私(PC担当TA)のいる第二教室に分かれます。まず学生は授業の最初に新世界にログインし、先生との情報交換の場である掲示板を見ます。そこには当日の課題が書かれており、その指定されたネット教材を学習、掲示板にて質問のやり取り、そして授業終了前に小テストを行うというものです。教材には先生による説明が動画で配信されており、普通の授業を受けている時と同じように学習する事が出来ます。また、教材中にわからない単語があった場合、その項目を選択すると日本語訳が出る辞書機能もあり、自学習に十分な機能が備わっています。しかしこの授業には大きな問題があります。それは生徒にどれだけ学習したいと思わせるか、どうやって自主性を引き出すか、という点です。
遠隔授業は生徒の自由度が高い分自主性が大きく求められます。指定された学習法が無く、学習スピードも生徒自身に任せられます。そのため、意識の高い学生とそうではない学生に大きな開きが生じます。ドイツ語の必要性をきちんと感じている学生は、ドイツ語のソフトを利用し、自分のペースで着実に学習を進めます。また付属の掲示板を利用して先生に質問メッセージを送ることもできます。ただ、学習意義に気付いていない学生の場合、与えられた時間をもてあましてしまいます。今何をすべきか、周りがどこまで学習しているか、“今”やらなければならないという認識が出来ないので、パソコン画面を印刷だけしてその日の授業を終えてしまうのでしょう。こうした学習意識問題の解決のため、新世界には掲示板が備わっており、質問によって配点がつくシステムになっています。
しかし、昨年度は機能していたこの掲示板も変更はほとんど無いにも関わらず、今年はあまり上手く働いていないように感じます。ドイツ語に関する質問事項が格段に少なく、システムに対する書き込みが多くなっていました。この日は遅刻していないはずだ、テストの点が違う、等です。どちらも確かに重要な書き込みだと思いますが、あまりにもドイツ語に対する集中力に欠けているように感じます。残念ですし、もったいない。こうした遠隔授業を行うには、学生に学習する意義をもっと認識させる必要があります。具体的には、初回の授業の際にドイツ語遠隔授業の必要性を説いたり、TA等、過去にドイツ語を受けた人からドイツ語の現在の使用状況を説明するといったことを実行してはどうでしょうか。事実私はこれまで、ドイツ語とロシア語の論文にぶつかったことがあります。その際、少なくとも文法の基本を触っておいてよかったと感じました。他には、ネットを使ってリアルタイムの動画配信(現在は録画配信)を行ったり、バーチャルな教室を作り自分の分身をそこに存在させることで“今”授業を受けているのだということを認識させたり、いつでもどこでも受けられるのだけれども、好きなように自学習をしている、という認識だけでなく、学生にとって必要な学習を自分だけでなく全員が受けているという認識も必要なのではないでしょうか。
CMCを利用することで、技術的に成長したシステムによるCALL授業が可能となってきました。次は人間が、急速にインターネットに慣れ親しんだようにCALL授業の意義や面白みをもっと理解して、SFを現実に変化させて欲しいなと思います。
安部 恒平(基礎工学研究科 機能創成専攻)
・所感
CALLシステムをTAとして利用した感想を述べます。所感としては、非常に多機能なマルチメディア環境が整っており、ビデオ・DVD・パーソナルコンピュータとインターネットによって提供できるWeb教材・音声出力等の多種多様な教材を生徒に提供できる点が最大のメリットであると思います。先生が提供できる教材のポテンシャルは無限大であるといっても過言ではありません。
しかしながら、すべてそのシステムに頼ることは危険であると考えています。例えば、出席確認の際にソフトウェアを使って行うと、ユーザが操作を間違えたり、時間がかかってしまったりしてしまいます。誤操作によりデータを保存し忘れ出席データを消失した場合復元できませんので、人間による確認の方が確実であると思います。少人数のクラスの場合、口頭と座席を目で確認すれば1分もかからない作業が、ソフトを使うと生徒の応答を待って時間がかかってしまう場合があります。60人を超えるようなクラスになると、口頭出席確認は時間がかかりますので、クラスの人数が多い場合はスカイメニューのシステムを使う方が効率的であると考えられます。確実に早く行いたいものはアナログな人間が行って、映像や音声などマルチメディアに特化した機能を用いる時は、音声および映像などの制御ソフトを使うという明確な区別をもって、授業を組み立てるほうがやりやすいかと思います。
また、授業をする際にコンピュータという道具が間に入りすぎてしまうと、先生→画面→生徒という図式になってしまい、生徒の集中力を維持するのが難しくなります。大学生であっても、質問を当てることによって90分間意識をこちらに向けておかなければ、集中は切れてしまうと思います。
・実際の作業
実際に行った作業ですが、初回授業にスカイメニューの出席確認機能を利用して、生徒に名前を入力してもらいました。そのデータによって座席の位置と名前が確認できる出席簿ができます。2回目以降の授業では、ソフトは用いずに、口頭確認と出席簿から1分以内に出席確認が行えるようになりました。
また、先生が読み上げた文章を生徒が聞き取ってWordに書き取りをするという練習がありました。一人見本となる生徒のWord画面をセンタースクリーンに出して、他の生徒が確認しながら、書き取りを行っていくという作業です。見本となる生徒の画面をセンタースクリーンに出す作業はスカイメニューの画面受信機能を用いれば簡単に行えますので、スムーズに次から生徒から次の生徒へとリスニングおよび書き取りの練習が行えました。また、Wordで作成した授業日程表をセンタースクリーンに出して、生徒に確認してもらうという使い方も行いました。事前にパソコンで作成した資料を生徒に見せたいときにはスカイメニューは非常に便利であると思います。
しかしながら、瞬間的に対応するにはOHPの方が早いと思います。例えば、生徒がテキストを忘れてきた場合は、事前に予測できませんので、OHPが便利です。その他の利用方法として、クラスをディスカッションするグループと自習するグループに分けて授業をする際に、自習しながら待機している学生に対してディスカッションに役立つお勧めのウェブサイトを紹介するのにCALL機能が役立ちました。スカイメニューを利用してセンター画面に写しておくと、自習の邪魔にもならずに勉強に役立つ情報を提供できたと考えています。
和田 園子(言語文化研究科 言語文化学専攻)
4月より2つの授業でTAをさせていただいた。ひとつは金曜1限のジェリー先生、もうひとつは月曜3限の日野先生である。
ジェリー先生の授業は「多読・速読」で、基礎工学部の2年生対象、テキストとして “D. Peaty,
Issues of Global Concern”を使用する。授業の目標は“to strengthen student skills in both speed-reading and high-volume reading”ということで、「多読」に関しては、先生がTOEFULなどのリーディングテストに必要な1分当たりの語数などを基準に計画をたてられ、一回の授業でテキスト2課を進み、「速読」として、次の授業でそのトピックに関係する別の記事を読み、テストを受ける、といった内容である。
CALL教室での授業ではあるが、朗読は先生ご自身が自分の声で行われる。先生の音読は大変わかりやすく、美しく、生き生きとしたリズム感やイントネーションに、聞く者は思わず引き込まれてしまう。これはやはり人間の声ならではであると思う。また、授業はすべて英語で行われるので、先生の指示や説明、すべてが学生にとっては英語の勉強になるようであった。最初は全て英語という事が学生にとってはプレッシャーであったかもしれないが、最後の方になれば、ひとつひとつの言葉にはわからないところがあっても、大体のところは聞き取って意味をつかむことができるという自信を持つことができたのではないかと考えている。
この授業ではさらにCALL教室ならではの機能が変化を与えてくれる。例えば、ジェリー先生が大切なセンテンスを読み上げられ、それを学生のひとりがリピートし、他の学生はワードにディクテーションしていく、というレッスンである。リピートしている学生の隣の人の画面を中央のディスプレイに映し出し、先生はそれをもとに間違い箇所の指摘や訂正を行い、学生はそれを見ながら自分の訂正を行う。リスニングやスピーキングだけでなくライティングも同時に行い、リーディングの授業でありながら4技能を使って英語を学習することを狙っている。
また、先生はまず語彙を増やすことが大切だ、と感じておられたようで、テキスト本文や問題においても、語の用法や同意語、反意語など、特にとりあげて説明され、学生の語彙力強化に力を入れておられた。さらにネットにアクセスして、google やyahooのadvanced search などを利用し、テキストに出てきた語の用法やコロケーションを検索して有益な例文を3つ、ワードにコピーする、といったレッスンも行った。例えば「~に対する差別」という表現を、“discrimination to” とする学生がいるが、discrimination をさまざまなニュースの中で検索すると “discrimination against...” というコロケーションになっていることがわかる。このレッスンでも、何人かの学生の画面を中央ディスプレイに映し出す、といった方法で全員がその成果を確認するということができる。このレッスンは一度だけであったが、一度経験しておけば学生は今後英語でメールやレポートをかく場合に自分の力でコロケーションや語の用法を確かめることができるし、英語に興味のある場合は日ごろから疑問に感じたことをもとにさまざまな知識をネットから得ることができる。学習者オートノミーの促進としても大変意味のあることだと考えている。
リーディングを担当するのは先生ご自身も初めて、ということで、多読と速読に関するさまざまなストラテジーを学生に伝授するために、先生は頻繁にニーズアナリシスを行い、いろいろと工夫をされていた。学生も先生の気持ちに答えて、授業回数が重なるに従って雰囲気もよくなっていったような気がする。CALL教室というハイテク環境にあってもやはり先生と学生の交流が授業をもりたてていくのだな、と強く感じた。
月曜3限の日野先生の授業は世界のニュースを体験する授業である。先生は当日の朝の海外のニュースをビデオにとってこられ、その内容について学生に英語で問いかけ、学生達は英語で答える。さらにインターネットでそのビデオと同じニュースを扱ったさまざまなニュースメディアのウェブページを読み比べ、さらに学生達と英語で問答をする。学生たちは国際英語のユーザーとして「当日の英語ニュースを視聴し、読み、それについて話し合う」という活動に実際に参加することになるわけである。
CNNやBBCのニュースはもちろん、ものすごい速さで、語彙も難しく、初めてこの授業を受けた学生はびっくりしたかもしれない。しかし、先生の質問はゆっくりで、内容も無理のないものであり、さらに、学生が答えられないときはより理解しやすいようにパラフレーズされるので、ちょうど先生の英語が難度の高い海外ニュースとの橋渡しのような感じになる。(とはいえ、TAにも容赦なく質問が飛んでくるのでわかるのだが、なかなか緊張するものがある。)また、ニュース映像だけでなく、ホームページを読むという形で再度そのニュースについてじっくり情報を得ることができるので、最初はなにがなんだかさっぱりわからなくても、だんだん内容がわかるようになってくる。ホームページを見てから再度ニュースを聞くと、ずいぶん聞き取れるようになっているものだ。
また、先生は質問をしながらニュースのキーとなる語彙や文法に関する説明をワンポイントレッスンのような形ではさまれる。ビデオによる映像と音声、ホームページの文字、そして先生との会話によって実際に英語を体験する中で出会う英語表現は、その国に行ってその国の人と話す中で出会った英語表現と同じ位印象に残る。
さらに、印象に残るのは英語表現だけではない。先生は質問の合間にニュースの背景となる文化についてのコメントを織り込んだり、歴史を説明されたりする。たとえばローマ法王のニュースではキリスト教やカソリックに関する知識や歴史を、EU憲法のニュースではEUそのものや国民投票についての説明をはさむ、といった調子である。これらの説明は実に興味深く、大変な発見があり、ひとりでホームページを読んだりニュースを聞いていただけでは決して読み取れなかったであろう深いところまで理解することになる。先生の授業は英語の授業というよりは英語で国際情勢や文化、歴史を学ぶ授業であると言ったほうが正確かもしれない。また、議論のフォーカスは常にそのニュースをどうとらえるか、であり、CNNやBBC以外にも様々なメディアのホームページをかけめぐることになる。今期の授業でも、訪ねたサイトはJerusalem post、South China Morning Post、 Channel News Asia、Aljazeera、Palestine Times、 Jakarta Post、NASA、等、実に様々であった。メディアによってニュースのとらえ方がいかに違うかがよくわかり、メディアリタラシーの側面も鍛えられることになる。月曜朝のBSワールドニュースでは残念ながら英語のものがCNNとBBCしかないのだが、金曜ではさらにアジアのニュースが扱われ、ますますバラエティー豊かな授業が展開されているようである。
この授業はネタの新鮮さが特徴のひとつで、それはその日家に帰ると実感することができる。授業で見たニュースをその日の夜にテレビで見ることになるのである。ローカルなものや軽い内容のものであれば、その週の週末のワイドショーで見たりすることもある。これは先生のご努力はもちろんのことながら、CALL教室というものがあって、インターネット上で世界を駆け巡ることができて初めて可能になることである。
このように、この授業はハイテク機器を駆使したものといえるが、その一方で先生は出席を機械ではとられない。先生は出席をとることを学生と挨拶する事と位置づけ、コミュニケーションととらえておられるので、出席は学生の名前を先生ご自身が実際に呼び、学生が返事をするというやり方を大切にしておられる。あくまでも人間が機械を使う、という考え方である。
学生にとってCNNやBBCのニュースを聞くことは初めは大変な困難を伴うものであったと思うが、全ての授業をおわってみて、だいぶ慣れることができたのではないだろうか。BSの海外ニュースを英語で見たり、様々な国のニュースメディアを読み比べる、ということは自分だけではなかなかできることではない。この授業を全て終えてみて、海外のニュースが学生にとって身近なものになり、ひとつの現象について様々なものの見方があるということを実感することができたなら、それはひとりひとりの学生にとって大変貴重な経験となっていることであろう。
両先生のTAをさせていただいて、私自身、大変勉強させていただいた。どちらの授業も大変学ぶところが多く、意義深い半年間であった。この場をかりて心からの感謝の意を表したい。