CALLシステム
授業担当教員の声

基礎工学部生のための英語授業に関する一考察


草ヶ谷 順子(サイバーメディアセンター マルチメディア言語教育研究部門)

1.はじめに

 筆者はこの4月に本学に着任し、なかば手探り状態で1学期の授業を終えた。本稿では、基礎工学部1年生を対象に筆者が実践した英語授業のシラバスを概観した後、受講前および受講後アンケートの結果を引用しながら本学期の反省と今後の展望について考察する。

2.授業の概要

 授業科目名は「英語420A」で、英語リスニング力の養成を主な目的としている。受講生は基礎工学部1年生で、学籍番号順に機械的にクラス分けされた46名(と再履修生1名)で、2005年4月14日から8月4日までの間、週1回(計15回)授業を実施した。教室は、サイバーメディアセンター豊中教育研究棟 CALL第2教室で、2003年導入のWindows XP搭載端末が65台設置されている。学生は1人ずつ端末の前に座って受講する形態である。

3.使用教材

 本授業で使用した教材は以下の2種類である。

(1) Listen to Me! シリーズ「Introduction to College Life」(以下、IC)

 この教材は三ラウンド・システムの指導理論(竹蓋他編, 2005)に基づいて制作されたリスニング力養成用CD-ROM教材、Listen to Me! シリーズのうちの1枚である。カリフォルニア大学バークレー校の教職員や学生へのインタビュー(動画)を素材としてコースウェア化されており、計5ユニットから成る。
ICの画面例

(2) リスニング用およびリーディング用語彙教材(以下、Vocab-L、Vocab-R)

 これらは語彙学習のための自作のCD-ROM教材である。英単語の綴りを見て日本語訳を想起できるだけでなく、語彙を多面的に学習でき、最終的には適切な場面で発信できるようなレベルにまで習得されるように計11ステップで構成されている。その最後のステップでは会話形式のリスニング問題または読解問題が出題され、実践的に使用できる形で語彙が習得されているかを確認することができる。ターゲット語彙としては、日常生活で使用される頻度の高い200語が選定されている。1セットは10語で構成されており、20~30分間の学習時間を要する。
語彙学習プログラムの画面例

 これらの教材は、いずれもサイバーメディアセンターのCALL第1~第3教室とマルチメディアセミナー室の全端末、および豊中教育実習棟のCALL教室の一部端末にインストールされており、授業が行われていない時間帯に自習することが可能となっている。また、自宅学習を希望した35名の受講生にはCD-ROMを貸し出した(いずれの教材も著作権者からの許諾を得ている)。

4.一回(90分)の授業内容

 授業では、基本的に下記の内容を毎週実践した。
 授業の最後5分程度、学生にはWebOCM(サイバーメディアセンターマルチメディア言語教育研究部門 細谷行輝教授が開発したLearning Management System)のNew Worldと呼ばれる電子掲示板に授業の感想や疑問に思ったこと等を自由に書き込ませ、翌週までに筆者が全投稿に対して回答した。また、全受講生に関係する、あるいは興味を持つと思われる疑問が投稿された際には、翌週の授業中に口頭で回答することもあった。

5.一学期間の授業内容

 本授業のテキストとして採用したCD-ROM教材はいずれもコースウェアの形になっている。つまり、通常は教師が口頭で解説するような情報は教材の適所に盛り込まれ、情報の提示順序や提示のタイミングもソフトウェア側で制御されているため、学習者は教師が目の前にいなくても自律して学習を進めていけるのである。
 このように、e-Learningは学習の時間や場所が制限されない等、マイペースで学習できることが長所として謳われることが多いが、語学を習得するには、ある程度適切なペースというものがある。たとえば、1Unitの学習に同じ10時間かけるとしても、1日で10時間連続して学習した場合と、1日1時間ずつ10日間で進めた場合では、学習効果がまったく異なってくる。そこで、ICおよびVocab-L, Vocab-Rは基本的にCALL教室や自宅等で自習をしてくることとし、授業中にはそのペース設定となるように下記の日程でテストを実施した。

第1回
第2回
第3回 ICのUnit 1テスト
Vocab-L Set 1, 2 小テスト
第4回 Vocab-L Set 3, 4 小テスト
第5回 Vocab-L Set 5, 6 小テスト
第6回 ICのUnit 2テスト
Vocab-L Set 7, 8 小テスト
第7回 Vocab-L Set 9, 10 小テスト
第8回 Vocab-L Set 1~10 総テスト
第9回 ICのUnit 3テスト
Vocab-R Set 1, 2 小テスト
第10回 Vocab-R Set 3, 4 小テスト
第11回 Vocab-R Set 5, 6 小テスト
第12回 ICのUnit 4テスト
Vocab-R Set 7, 8 小テスト
第13回 Vocab-R Set 9, 10 小テスト
第14回 Vocab-R Set 1~10 総テスト
第15回 期末テスト

6.授業後の感想

(1)ICに対する感想

 ICは文部科学省科学研究費補助金の助成を受けて千葉大学で制作された教材だが、そのインタビュー素材が撮影されたカリフォルニア大学バークレー校は本学の大学間提携校であり、毎年交換留学生を輩出している。こうした事実も、学生がICに対して興味を抱く一因となったようだ。具体的に、学生からの感想としては、「UCBはインターネットサーバ用OSや研究用のOSとして広く普及しているBSD(Berkeley Software Distribution)を開発した事でとても有名です。その大学で撮影されたものが素材となっているICには非常に興味を持ちました」、「今までにない形の英語の勉強法であり、さらに実際は役に立たない高校英語と違い、実際に使えるような英語を勉強できてよかった」、「アメリカの大学の雰囲気がよく分かったし、リスニング力も確実についてきたと思う。ICで勉強していたら留学したくなった」など、肯定的な感想が多く聞かれた。

ICは文部科学省科学研究費補助金による特定領域研究「高等教育改革に資するマルチメディアの高度利用に関する研究」(領域代表者 坂元昂)の中の計画研究「外国語CALL教材の高度化の研究」(研究代表者 竹蓋幸生)で制作されたものである。http://call.atso-net.jp参照。

(2)Vocab-L, Vocab-Rに対する感想

 語彙学習プログラムに対する感想としては、「中学・高校でも同じように単語テストが毎週行われていたが、無味乾燥な単語帳でまったく覚える気がせず、覚えてもほとんど頭に入らなかったことを記憶している。事実、それがいやで、大学に入るまで単語帳はほとんど開かなかった。今、語彙学習プログラムで英単語を学習しているが、これは驚くほど効率がよく、さらに頭に残る。今まで嫌だった単語学習がまったく苦にならなくなった」、「総テストのときは復習が大変だと思っていたが、復習しなくても案外覚えていたので驚いた」など、学習方法に対しては肯定的な意見が多かった。ところが、ターゲット語彙に関しては「既に知っている語がたくさんあったので、もっと難易度の高い語彙を学習したかった」、「あまり興味のある分野の語彙ではなかったので、勉強する気になれなかった」などの意見も散見された。このことから、分野および難易度レベルを考慮したターゲット語彙の選定およびコンテンツの入れ替えが必要であることが示唆された。

(3)WebOCMに対する感想

 WebOCMのNew Worldと呼ばれる電子掲示板に投稿された受講生からの授業の感想や疑問に対して、翌週までに回答するにはかなりの時間を要した。1人につき5分間で回答したとしても、1クラス分にすると約4時間かかることになる。しかし、受講後アンケートでは、「WebOCMでのコミュニケーションツールを利用したやりとりは楽しく、学習意欲がわいた」と回答した学生は79%で、下記のような意見も寄せられており、その程度の時間をかけるだけの価値はあると判断している。
先生とのやりとりは毎回授業でのたのしみでした。自分の意見に対する先生の直の意見が聞けて本当によかった。どの授業にもこのようなものがあるとうれしいと思った。先生、半年間ありがとう!
 WebOCMを利用したコミュニケーション活動は、教師が学生の考えていることを逐次把握し、授業内容や方法に対するPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを短いスパンで行うことを可能にする。また、他の受講生が抱いている感想や疑問を掲示板を通して共有できるため、クラスとしての一体感を持つこともできる。大人数クラスの授業やe-Learningを中心とした授業では学生と教師の間、そして学生間に壁が出来てしまうことが多いが、心理的な距離感を縮めると共に、学生の学習意欲を引き出し、持続させることができるのである。こうした点においても、WebOCMは非常に重要な役割を担っていると考える。教師は、学習者のニーズや興味に合った教材を制作し、提示すればその役割が終わるのではなく、それをどのようなペースで学習させ、いかにしてやる気を引き出し持続させるか、といったことまでを考慮することも役割の一部なのである。そして、それらの役割を果たして初めて効果的な学習が行われるのであろう。

7.反省点と今後の展望

 1学期間の授業を終え、反省すべき点と今後の展望が明らかとなってきた。本稿ではそのうちの3つを取り上げて考察する。

(1)ニーズ、難易度を考慮したコンテンツ作成

 自作の語彙学習用プログラム、Vocab-L, Vocab-Rについて、「ターゲット語彙の難易度は、もう少し高くても良いと思う」という意見が過半数にのぼった。同時に、「インプットしやすく、忘れにくい構造になっているため、専門分野の英語もこのプログラムで学びたい」と表明した学生が70%を占めた。これらのことから、学生のニーズに合った分野、難易度レベルの教材を整備することの必要性を感じた。
 また学生は、4月に実施した受講前アンケートで、「簡単な日常会話しか聞くことができない」(92%)、「自分の言いたいことを英語で表現することは、ほとんどできない(58%)/わずかだけできる(38%)」と自己評価している一方、英語学習の目的としては、「専門分野の研究活動のため」(29%)、「希望の職種に就くため」(20%)、「英語の資格試験を受けるため」(20%)、「海外で仕事をするため」(18%)と、非常に高度な英語力の習得を目指していることがわかる。
 また、基礎工学部の教師からは、「研究室に配属される学部4年の時点で、英語論文の読解、執筆はある程度できるようになっていてほしい」、「専門分野の基礎レベルの語彙(英語圏の高校レベルで使用される語彙)は4技能で使える形で習得してきてほしい」、「質疑応答も含め、英語プレゼンテーションを実践できるようになってほしい」などという強い要望がある。
 こうした学生の現状のレベルと目標レベルとのギャップを鑑みると、学部1年次から継続的、そしてシステマティックに英語学習を行う必要があることが明らかであり、その教材制作は急務を要することが分かる。まずは、基礎工学部の学生としては、どのような分野のどういった語彙が必要とされているかを分析、精選し、語彙学習プログラムのコンテンツを作成していきたい。

(2)適切な学習ペースの設定

 ICは自習として課した量が多すぎて消化不良を訴える学生が少なからず見られた。「勉強をしたいという気持ちは強く、自習もできるだけしているが、Unit Testの日までにそのUnitを終わらせることができない」というのである。こうした意見は学期途中に何度か聞かれたのだが、授業開始時に配付したシラバスに沿って無理に計画を遂行してしまった感がある。
 この点について反省し、来学期以降はUnit Testまでの間隔を今学期よりも空けて当該Unitを十分に学習できるようにする、あるいは、予備の週を設け、学生の進捗状況を見ながら臨機応変に計画を見直していく等の対策を講じることにより、興味とやる気が引き出された学生が消化不良をおこさないよう留意したい。

(3)CALL授業の選択科目化

 長期間の継続学習を必要とする語学学習において、自宅での効果的な自律自習が可能となるe-Learningはまさにうってつけの学習形態と考えられる。ただし一方で、その学習環境が整っていない学生には不利益が生じることになる(自宅でのe-Learning環境が整っていない学生は11%)。事実、上記の消化不良を訴えてきた学生の多くが、自宅での自習を行えない環境にある学生たちであった。このため、CALL教室を使用する授業を選択科目にし、自宅でのe-Learning環境が整った段階で受講できるようなシステムに変更したり、希望者にパソコンをリースする体制を確立するなどの対策を講じる必要があると思われる。
 CALLを使用する授業を選択性にした方がよいと考える理由はもう1つある。それは、ICの教材シリーズやVocab-L, Vocab-Rでの学習の継続を強く望む学生がいる一方、パソコンでの学習にはどうしてもなじめないという学生もいたことである。現代の若者は皆、高度なコンピュータリテラシーを持っておりe-Learningに抵抗がないと思われがちかもしれないが、実際には「モニターを見ていると目がチカチカして勉強する気になれない」、「パソコンに向かっていると疎外感を感じる」という学生もいる。このことは、長年e-Learningを実践している教育機関では以前から指摘されていることであり、Palloff & Pratt (1999) などが提案しているように、事前にCALL授業に対する適性検査を行うことも考えられるだろう。

参考文献

竹蓋幸生,水光雅則(編),『これからの大学英語教育』,岩波書店,東京,2005.

Palloff, R. M., & Pratt, K. (1999). Building Learning Communities in Cyberspace. San Francisco, CA: Jossey-Bass Inc., Publishers.