情報教育システム
授業担当教員の声

情報活用基礎を担当して


玉川 裕夫(歯学部附属病院口腔総合診療部)

1.はじめに

 私が担当しているのは、大学に入ったばかりの医学部・歯学部の学生さんを対象とした情報活用基礎の授業である。4月に開講され、教室には新しい大学生活への希望に満ちた顔があふれている。この授業では、教壇に立って説明することよりも、質問を受けるため教室内をうろうろしていることの方が多い。受講対象者が160名と多いので、サイバーメディアセンターの2つの教室を、お借りしている。以下に、日頃感じていることを書かせて頂いた。

2.ケイタイとの連携

 授業で教室をうろうろしていると、目につくのが携帯電話(ケイタイ)である。
 学生さんにとってケイタイは、日常的で最も親密度の高い情報機器なのだろう。シンプルなものから、いろいろと趣向を凝らしたストラップをつけたものまで、情報デバイスというよりも装飾品として扱われおり、肌身離さず使っているのだなと推測される。高校生の頃から使っているのもあるかもしれない。
 そんな環境を反映してか、情報活用基礎のなかでもメールに関する授業は進めやすく、背景にあるサーバの動きや、配信の仕組みを理解した上での質問もでてくる。
 そこで私は、サイバーメディアセンターとして、このケイタイを活用することに、もう少し力を入れられないかなと思う。たとえば、ケイタイへのメール転送を許可するとか、ケイタイからアクセスできるページ作りを支援するとかである。
 技術的な問題や、学生さんのふるまいが気になるところではあるが、ケイタイがいわゆるウエアラブルコンピュータとしての機能を持ちつつあることを考えると、ケイタイとの連携を視野に入れた機器を、センターとして準備しておく時期はそれほど先ではないと思う。

3.情報スキルって何?

 うろうろしていて感じることの二つめは、学生さんのいわゆる情報スキルと出来上がったプレゼンテーションの見栄えとのギャップである。
 月曜1限の授業では、最後の3回を使って、各自で決めたテーマをもとにプレゼンテーションする機会を設けている。昨今の医療の現場では、わかりやすく説明する能力が求められており、いずれ現場で患者さんと向き合うであろう学生さんに、今からそのことを考えてもらおうとはじめたことである。学会発表の疑似体験でもある。
 私が驚いたのは、一昔前には考えられなかったような、カラフルで動きのある画面を作っている学生さんが、自分のファイルを別のディレクトリに移動するにはどうしたらよいかと聞いてきた時である。しかも、その学生さんが書いたHTMLファイルは、テーブル形式の細かいプロパティまで書き込んだ複雑なもので、一読しただけでは何がどのように表示されるのかわからなかった。ここまでできるスキルがあるのに、ファイル管理の基礎を知らないのかと、不思議に思った。これまでにも、このようなHTMLファイルを書けるスキルを持った学生さんがいたし、なかにはEMACSを使っている学生さんもいたが、彼らはファイル管理のことなど質問しなかったし、こちらも彼らにそんなことを説明する必要はないと考えており、それでよかったのである。
 ところが、今は違う。
 ホームページ作成用の様々なアプリケーションが出ており、それらを使えばすてきな作品が簡単にできちゃうので、ファイル構造や文字コードの知識などいらない。
 すなわち、情報を活用するスキルを養うためには、建前上、情報機器で何がどのように扱われているかの基本的な仕組みを理解して、そのうえでアプリケーションを使えるようになるのがよかろうが、現実の学生さんは、華やかできらきらしたホームページを作ったところで満足してしまう。受験を通して、最も効率良く正解にいたるための訓練を重ね、その能力を身につけてきた学生さんに、限られた授業時間のなかで、ものごとの基本的な仕組みを退屈させずにどう教えるかが教官の悩みの種である。尽きることのない課題でもある。

4. 自己表現と評価

 3つめとして、学生さんの自己表現について書いてみたい。
 前述のように、医学部・歯学部の学生さんを対象とした情報活用基礎では、プレゼンテーションの時間を最後に設けている。それまでの授業で出てきた様々なテクニックを活用し、自分で決めたテーマに対してプレゼンテーションを行うという課題であるが、これが皆、生き生きとしてやっている。教室の事情や授業内容の関係で、自分の近くに座った5-6人を対象に、作ったものを発表することになるという気安さもあるのかもしれない。
 自分のふるさとの話や、出身校の話、あるいは課外活動や趣味の話など、しっかりとした筋書きのものを作っている学生さんが少なくないし、国境なき医師団や脳死の問題など、将来の医療関係者としての視野を感じさせる作品もある。
 正直なところ、毎年発表を聞くのが楽しみでもある。
 プレゼンテーションは学生さんの相互評価にしており、メールを使って評価内容を送信するのであるが、この準備のために多少時間をとられるところがいたい。できれば、プレゼンテーションの時間を長くとるため、WebCTを利用した評価ができるよう準備を進めたい。
 卒後研修の現場では、教壇にたって講義を行う形式から、スモールグループによるディスカッションを重視する形式に、授業の進め方が変わりつつあり、研修医からもおおむね良好な評価がでてきている。今年、情報活用基礎の授業を受けた学生さんが、学部教育を終えて研修医となる頃には、全員が効率良く自己表現することができるようになっていて欲しいものである。
 以上、日頃感じていることを、そのまま書かせていただいたが、10年ほど前に情報活用基礎の授業が始まった頃とは学生さんの気質も違ってきたようで、ずいぶん明るく、おしゃれになった。それは、センターの建物からくるイメージや階段の明るさが影響しているのかもしれない。
少人数のスタッフでよくあれだけのユーザーをマネジメントしてこられたし、システムもうまく運用しておられるので、次の機種更新では、学生生活により密着したセンターになるであろうと期待している。