情報教育システム
授業担当教員の声

薬学部情報活用基礎の今昔物語


山内 雄二(大学院薬学研究科 分子薬科学専攻)

1.はじめに

 薬学部情報活用基礎は1年生を対象として開講されている情報系演習講義であり、約90名の学生を2つの講義室を利用しながら6名の教官で担当しています。本講義はコンピューターが得意であるとは言えない薬学部学生をコンピューター利用の窓口へと誘うのを目的とし、下記のような内容を学んでいます。
 1) 情報教育システムの概説
 2) ネットワークの利用法と情報倫理
 3) メールの送受信とホームページの閲覧
 4) ワープロソフトの利用方法
 5) プレゼンテーションソフトの利用方法
 6) プレゼンテーションのグループ作製と発表
 7) 表計算ソフトの利用方法
 8) 表計算と作図

2. 薬学部情報活用基礎の今昔

 数年前まで薬学部の新入生の多くがパソコン未経験者であり、マウスの使用方法やキーボードの入力方法などのコンピューターの基礎の基礎から本講義で学んでいました。パソコンを触るのも“恐る恐る”という学生も多くいました。ところが近年の一般家庭の急速な情報化・IT化および小・中・高校への情報教育の導入などに伴い、薬学部新入生のパソコン経験率が年々上昇し、薬学部情報活用基礎の授業風景も随分変化してきました。メールの送受信やワープロ作成ぐらいは大半の学生が難なくこなし、ネットサーフィンなどは小慣れた指さばきでチャキチャキと行う時代となりました。4~5人のグループでテーマを決めプレゼンテーションを作製し発表するという課題では、アニメーションや作図機能を巧みに利用した芸術センス満載の教官顔負けのプレゼンテーションを見ることができるようにもなりました。
 ところが、パソコンに不慣れな新入生がいるのも確かです。その人数は年々減少傾向にはありますが、その一方でパソコンに“慣れた新入生”と“不慣れな新入生”の情報教育レベルの格差が拡大しているのも事実ではないでしょうか。教育現場においてそれらの学生を無視してはなりません。幸いにも現代の学生は、たとえパソコンには“不慣れ”でも携帯電話には“チョー慣れ”ています。特に携帯電話の高機能化の進展に伴い、学生たちにとって携帯電話は単なる電話ではなく情報収集・情報交換ツールとなっています。そのような携帯電話を使いこなしている学生たちの情報教育への適応能力は、一昔前と比べると格段に向上しています。従って、パソコンに“不慣れ”な学生でも、ほんの少し丁寧に説明してあげれば直ぐに要領を呑み込み自分でパソコンを操れるようになります。情報活用基礎を担当する教官に今求められていることは、パソコンに“不慣れ”な学生を如何に早く発見・把握し、それらの学生に一言・二言の丁寧な説明を如何に行うかなのかもしれません。それらの小さな努力が、新入生の中に漂っている“情報教育レベルの格差”を縮小する結果となれば教育者として嬉しい限りです。

3. 薬学部情報活用基礎の今後

 近年の学生を見ていて“便利な情報ネットワークシステムの落とし穴”を深刻に感じることが1つあります。それは学生が図書館に通わなくなったこと。パソコンで検索すれば回答が画面に表示される非常に便利な世の中となりました。しかし一方で、パソコン検索で回答が得られなかった場合は諦めてしまう学生が非常に多くなりました。電子ジャーナルで文献が得られなければ、たとえ数分歩いた図書館に雑誌があったとしても、入手困難な文献として扱ってしまう学生が多くなりました。これらのことは情報を入手・活用することの基礎教育が正しく行われていないことに原因があるのかもしれません。
 今後、パソコンが一家に1台あるいは1人に1台存在する環境で生まれ育った学生が入学してきます。そのような時代における“薬学生”に対する情報活用基礎教育とはどうあるべきなのでしょうか。前述の様に、パソコンを利用するためのスキルを持っている学生は非常に増えましたが、情報を正しく活用するための基礎教育を習得している学生はあまり多くないように感じます。薬学部の学生の多くは将来、研究者や薬剤師として活躍します。何れの職種においても情報を正しく入手あるいは配信し、社会倫理に則って活用することが求められます。これらのことを考慮すると、パソコンを利用するためのスキルだけでなく、
 1) 情報とは何なのか
 2) 情報はどのように入手するのか
 3) 情報はどのように活用するのか
という基本に回帰することが必要なのかもしれません。