WEB対応授業支援システムWebOCM「ウエブ・オーシーエム」


細谷 行輝 (サイバーメディアセンター・マルチメディア言語教育研究部門)
(hosoya@cmc.)

1. CALL授業とWEB授業

 筆者は、サイバーメディアセンター・マルチメディア言語教育研究部門に所属し、現在、主として、CALL(Computer Assisted Language Learning:「コール」)での授業を成り立たせるため、スタッフともども日夜微力を尽くしているが、このCALL授業は、基本的には、各教室に配備されている端末群の存在を前提に実施されている。しかしながら、文部科学省のいう「インターネット等活用授業」等、種々の遠隔授業を念頭に置いた場合、今後は、CALL授業とWEB授業が並行して進められるものと思われる。

2. WEBによる授業の長短

WEB授業の長所は、
  1. 時間的制約の解消:いつでも授業に参加できる
  2. 地理的制約の解消:ネットワークに接続されているパソコンがあればどこでも授業に参加できる
  3. オーダーメイド教育の実現:画一教育から、ホームページ教材を活用した、個々人の能力とペースに応じたオーダーメイド教育を実現する
  4. インターネット・デジタルの利点を最大限に活かせる
    • 最新のニュースサイト等、各種ホームページを教材に使える
    • ストリーミングビデオを用いた Video on Demand の実現
    • 授業に伴う各種手作業を自動化できる

一方、WEB授業の短所は、
  1. 本人の認証が難しい
  2. コミュニケーションに制限がある
  3. 対面授業に見られる緊迫感が無い
  4. 学習者の自主性に任せる部分が多い
図1 WebOCMウインドウ       
従って、こうした長短を客観的に見つめながら、WEB授業の実現に向け、ハード・ソフト環境を整えることになるが、ハードについては、インターネットに接続されたPC Serverと、クライアントとしてのパソコンがあれば事足りる。ソフトについては、「教材部分」と「授業支援部分」の二側面から考える必要がある。              

3. WebOCM [ウェブ・オーシーエム] とは?

 WEBで効果的な授業を実施するには、ホームページ形式の優れたマルチメディア教材が必要となる。しかしながら、これだけでは、教師の負担が徒に増えるばかりで、WEB授業の成果も覚束ない、といった事態が生じ得る。そこで、マルチメディア教材に加えて、WEB授業を支援するシステムソフトが必要となるが、従来の授業支援システムでは、隔靴掻痒の感を拭えず、とりわけコンピュータ関連の知識の乏しい文系教師のレベルを念頭に置いた場合、お世辞にも、使いやすいとは言えない状況にあった。そこで、真にユーザフレンドリーなWEB対応授業支援システムの開発を目指して出来たのが WebOCM(すでに授業で試用されているが、正式には2003年8月末完成予定)である。従って、WebOCMの概要を以下に記すことが、とりもなおさず、21世紀型WEB授業の概要を明らかにすることになろう。
 WebOCM(それ自身もホームページとして実現される)は、ブラウザの機能を拡張し(ActiveX)、WWWサーバ(IIS Server)を拡張(DLL、その他のサービスプログラム)することにより、通常のWEBでは実現できないユーザフレンドリな授業環境を提供するものであるが、具体的に、WebOCM の主たる機能は、
  1. ワンタッチ辞書機能(任意のホームページ上の任意の単語をダブルクリックするだけでその意味が表示される:リンクは一切不要!)
  2. リアルタイム辞書登録機能(辞書拡張機能)
  3. エキスパートシステム(任意のホームページ上の任意のキーワードをダブルクリック、またはなぞるだけでその関連情報が瞬時に表示される)
  4. テスティングシステム(練習問題、小テストの自動生成、自動採点、自動集計)
  5. 出席管理システム(受講生がWebOCM にアクセスした日時と、WebOCM を終了した日時が、自動でデータベースに記録され、これが出欠データとなる)
  6. 高機能コミュニケーションツール「新世界」(未読メッセージのリアルタイム通知機能付)
  7. 成績管理システム
  8. WEB対応アンケートシステム
  9. その他
となろう。
 1.の「ワンタッチ辞書機能」は、とくに外国語からなるホームページ教材にて威力を発揮する。分からない単語があれば、これをダブルクリックするだけで、その意味が瞬時に表示される。無論、ホームページ上の当該単語にリンク情報は一切不要である。リンク情報が無いのにブラウザが単語を自動で認識し、その単語をWWWサーバに渡してその意味記述を返す仕組みである。無論、単語を逐一入力して検索する方式を否定するものではないが、オンラインで学習する以上、ワンタッチで単語の意味が表示される機能は、学習者にも好評のようである。
 3.の「エキスパートシステム」は、ワンタッチ辞書機能の応用であり、単語のように分かち書きされていない文字データ(キーワード)に関して、そのキーワードに対する何らかの情報を、サーバ側に用意されているデータベースファイルから瞬時に取得してクライアントのブラウザに表示する機能である。すなわち、キーワードとそれに対する情報をデータベース化してサーバ側においておくだけで、このエキスパートシステムを利用することができる。
 4.の「テスティングシステム」は、予め、練習問題・小テスト用の素材ファイル(XML形式)を作成しておくだけで、WebOCM が自動にて問題を作成(ホームページ化)し、自動採点、自動集計を実現する。コンピュータ支援の授業形式では、学習者の自主性に任せる部分が多くなるため、毎時間、小テストを実施して、学習者の理解度を計るのが最善であるが、従来は、小テストを作成し、これを採点・集計するための教師側の負担が大きかったため、毎回の実施は困難な状況にあった。WebOCM では、素材ファイルを既存のテンプレートファイルに従い、独自にあるいは共同で作成することにより、テスティングを毎授業時に実施することが可能となる。コンピュータ操作に疎い教師でも、このテスティングシステムは利用価値が高いであろう。
 5.の「出席管理システム」では、クライアントのブラウザが閉じられた時間を把握することの難しいWEBの弱点を克服して、WebOCMは、ブラウザ終了時の日時をサーバ側に登録する機能を有しており、これにより、学習者はいつでも自分の出席、遅刻、早退、等の情報を確認することができる。なお、テストの形式としては、選択形式、穴埋め形式、自由記述形式等に対応している。
 6.の「高機能コミュニケーションツール」は、文部科学省の言う「インターネット等活用授業」に必須の機能であり、いわゆるホームページ形式の電子掲示板にて実現されるため、従来は、更新ボタンを押さない限り他者の新規メッセージの有無を確認することができないという弱点があった。従って、クライアントからサーバへのプル機能で成立している現在のWEBの仕組みの弱点を補強し、サーバからクライアントへのプッシュ機能を装備することにより、新規メッセージの有無をリアルタイムで自動にて確認することが可能となる。すなわち、WebOCM のコミュニケーションツール「新世界」は、リアルタイムメッセージ通知機能を装備しており、非同期のみならず、同期のWEB授業にても、迅速なるコミュニケーションを実現する。
 7.の「WEB対応アンケートシステム」では、XML形式のアンケート項目を自動でホームページ化するとともに、リアルタイム自動集計機能を有している。
 

 以上、WEB対応授業支援システムWebOCMの仕様を紹介することにより、WEB授業、オンライン学習の現状と可能性について略述した。なお、WebOCM は、他大学でも実験的に利用されることになっており、営利を目的としない教育機関での無料公開を予定している。