情報処理教育研究会の開催報告
情報処理教育研究会(第19 回)
日時 平成13 年12 月10 日(月) 14:00~16:30
場所 サイバーメディアセンター豊中教育実習棟第二教室
プログラム
- 「Pov-Ray によるCG 基礎教育の試み」(基礎工学研究科才脇直樹先生)
- 「蛋白質立体構造表示プログラム(Cn3D) について」(サイバーメディアセンター 時 田恵一郎先生)
- 「ディジタル回路設計CADツールの紹介」(サイバーメディアセンター 北道淳司先生)
参加者 11 名
Pov-Ray によるCG基礎教育の試み
概要
| 最近、CG (Computer Graphics) の作成がソフト・ハードの普及で身近になりつつある。一見遊びのようにも見えるが、楽しみながらプログラミングを体験できるという意味で、センター のLinux 環境にインストールされているPov-Ray などは学習課題としても魅力的である。特 論の授業の一環として、Pov-Ray を用いたコンテストを実施したので、この実践報告を行う。 |
最初にPov-Ray について、シーン記述言語を使うこと(モデラー併用も可能)、ボランティアベー
スで開発されていて、Windows, Unix, OS/2, Mac 等のプラットフォームで稼働することなどの解
説がありました。授業は基礎工学部システム科学科の2 年生を対象として、7 回でプログラミング
とCGの基礎を教えるもので、実習としてPov-Ray をとりあげ、文法解説+例題学習(30-50min)、
CG 知識の概念(20min)、作品提出(その日の知識に対応する分) という手順で行われました。9
割 の学生から「抽象的なプログラミングより楽しい」という評価を受けているそうです。また、可
視化されるので、コピーの防止、競争心をかき立てるなどの効果もありました。コンテストでは、
技術的、芸術的、など複数観点から審査できるように工夫されています。作品は、次のページで見
ることができます(http://www-nishilab.sys.es.osaka-u.ac.jp/contest/contest.html
)。
さらに、「サイバーメディアセンター内に完成作品を掲示したい」という要望に対しては、学生に
許可をもらえばぜひそのようにしたいとのご返事でした。その他、理系対象ならMaya
やOpenGL 等が良いのではないか、モデラ─を利用すれば文系学生への教育にも使えるのではないか、資格
試験(CG 検定・マルチメディア検定) を参考に客観的な評価ができるようにしたい、等の意見が
ありました。
蛋白質立体構造表示プログラム(Cn3D) について
概要
| 全学共通教育の情報処理教育科目「情報探索入門」(1 年生対象) で、理学・工学情報データ ベースとして、Web of Science、Citation Index、および分子生物学立体構造データベースとCn3D について講義・実習を行った。研究会では、立体構造表示プログラムについてレビュー し、講義・実習の様子も報告する。 |
最初に分子生物学のデータベース(PDB, Entrez, MMDB など) の簡単な紹介があり、タンパク 質などの立体構造を表示するプログラム(Cn3D) について説明されました。Web of Science は有 償データベースなので、授業で検索する際には、教育目的ということでその時間帯だけ同時アク セス数やアクセスデータベースの制約を外してもらったそうです。授業内容は、Citation Index を 用いて「20 世紀の偉大な論文について調べよ」、データベースを探索して「狂牛病の病原体につい て調べよ」など。内容的に一年生を相手にするのは苦労するとのことでした。
ディジタル回路設計CAD ツールの紹介
概要
| ディジタル回路の設計に用いるCAD ツールは、企業における開発に用いられることが中心で 極めて高価であり、大学での教育研究に用いることは困難であった。最近は、アカデミック プログラムの提供、ツールの無料配布、VDEC(東京大学大規模集積システム設計教育センタ) でのCAD ツールのライセンス配布などが行われるようになり、大学教育への導入も容易にな りつつある。研究会では、これらのツールについていくつか事例も含めて紹介する。 |
最初に、近年の状況として、HDL(Hardware Description Language) を用いた設計(VHDL, VerilogHDL) が中心であるなどの解説がありました。実際の授業では、基礎工学部情報科学科で2 学期 の「実験A」(の後半) ではCAD を教えてPLD を使わせ、3 年の2 学期の「実験C」では、Altera 社のCAD でFPGA を使ってコンピュータを作る実験をさせています。そこでは、PC 上でシュミ レーションによりデバッグをして、FPGA を載せた実験用ボードへのダウンロードは最後の一回 で行います。このほか、VDEC(東大大規模集積システム設計教育センター) を利用してASIC を作 成する(チップ試作は、CMOS 0.35um, 5mm 角, 10 個で35 万円) ことなどの紹介がありました。
情報処理教育研究会(第20 回)
日時 平成14 年3 月11 日(水) 13:30~17:00
場所 サイバーメディアセンター豊中教育実習棟第二教室
プログラム
- 「WebCT の現状と高等教育用情報基盤の今後」(名古屋大学情報メディア教育センター
梶田将司先生)
- 「Maple 7 新機能・概要ご紹介」(サイバネットシステム(株) 小城洋子氏)
- 「Vine Linux - Past, Present and Future」(レッドハット(株)・Project Vine
武井和 久氏)
情報教育システムを使った授業を行っていく上で、次年度から活用していくことになる、WebCT,
Maple, Vine Linux のそれぞれについて、それぞれの専門家の方に講演して頂き、活発な議論がさ
れました。
WebCT の現状と高等教育用情報基盤の今後
概要
| アメリカ合衆国・カナダの高等教育機関において利用が広がっているWebCT は、遠隔教育用の WBT(Web Based Training) システムとして利用されているだけでなく、オンキャンパス教育 の中心である通常の講義において、講義時間外の学習環境を学生に提供するためのe-Learning プラットフォームとしても利用されている。WebCT の北米での現状、名古屋大学における日 本語化状況、及び、IMS/SCORM による標準化動向などの内容に関して紹介する。 |
情報教育システムを使って授業を進めていく上で、各先生方がそれぞれ独自に工夫をしながら
教材を作っている現状から、非常に興味の高い話題であり、非常に議論が白熱しました。
授業において、資料を作ってもなかなか学生が読んでくれない面に対してWebCT
はその特効 薬になるのか、また、学習フローを制御するという仕組みを容易に実現できるのか、WebCT
と いう新しいシステムを使うことにするための先生側の敷居の越え方など、活発に議論がなされま
した。
WebCT は非常に高機能であり、資料提供だけでなく、掲示版やオンライン試験などが行なえま
すが、単に今までの授業用の資料を電子化する、というだけではなく、自学自習を考えた新たな
コンテンツとして作成していく必要性や、インストラクシャナル・デザイン、という考え方、その
資料を調べることで何が出来るのか、ということを明確にできるようなコンテンツが求められる
のだ、という指摘がありました。また、そのようになってくると、学生へのサービスが過剰にな
り学生の自助努力に対する妨げになりかねないのではないか、という意見には、あくまで、ベー
スとなる知識習得を向上させることにWebCT を使っていけばよく、それをベースにした、より
深い知識習得への自助努力がなされれば良いだろう、という指摘がありました。さらに、高機能
過ぎるが、教官側がどう使っていくのが良いのかに関しての指針がないのか、という点に関して
は、まだ妙案がなく、まだまだ試行錯誤を繰り返す必要があるだろう、ということでした。
平成14 年度から、情報教育システムにおいてWebCT が積極的に使われることを期待してい ます。
Maple 7 新機能・概要ご紹介
概要
| 数式処理や数値解析だけではなく、WEB コンテンツや、プログラミング機能、またワーク シート環境など多種多様様な機能をご紹介する。最新版Maple7 では、単位変換機能や、Math ML2.0、XMLサポート、TCP/IP ソケットなどが追加され、マルチ環境への対応も可能となっ ている。 |
情報教育システムには、以前よりウルフラム社のMathematica という数式処理アプリケーショ ンが導入されていましたが、平成14 年度から、Maple も同様に使えるようになりました。 議論は、はやりMathematica との違いに集まりました。オープンアーキテクチャであること、 細かい操作性の良さ、ある種の微分方程式処理の回答正答率ベンチマークの差などが挙げられま した。さらにMaple では、infolevel というツールにより、導出過程まで見ることが出来ることか ら、単なる数式処理ツールとしてだけではなく、教育教材としても使うことが出来る可能性が示 されました。
Mathematica 同様、サイバーメディアセンターでキャンパスライセンスを取得していますので、 適材適所で利用されていくことを期待します。
Vine Linux - Past, Present and Future
概要
| Vine Linux の紹介、Desktop 環境とVine Linux、大学での計算機環境とLinux (オープン ソースの教育性)、アカデミー向けカスタムディストリビューションなどについて紹介する。 |
情報教育システムは、平成13 年度まではTurboLinux 6.0 を利用していましたが、日本語環境
の充実と、ベースとなるカーネルやライブラリのバージョンの古さなどを理由に、メジャーバー
ジョンアップを行い、その際に、ディストリビューションとしてVineLinux 2.1.5
を選択しました。
議論は、このバージョンアップによる今までの不具合がどの程度解消されることになるのか、と
いうことに集中しました。Netscape, gEdit, Xwnmo などの主要アプリケーションの不具合に関し
ては、ある程度の改善は見られるが、本質的に手が入れられないアプリケーションは仕方ないこ
と、日本語化の度合として、どこまでコンピュータ利用初心者でも分かりやすく使えるのか、と
いった質問が出されました。VineLinux は、日本人のための日本語ディストリビューションを目
指していることもあり、日本語化の度合は、コンピュータに詳しい人から見れば、過剰とも言え
る部分もありますが、本学のように文系から理系まで、幅広いユーザ層を考えれば、そのような
部分はありがたい部分になるだろう、とも言えます。また、以前のシステムである、NeXT
の出 来との比較、特にUser Interface の部分の問題に関する言及もあり、VineLinux
というディスト リビューションとしてのポリシがあるといいのに、という意見がありました。
平成14 年度から、VineLinux で稼働を開始していますが、少しでも不具合が解消されて、使い やすいシステムになることを期待します。
情報メディア教育研究部門 桝田 秀夫