歯学部附属歯科技工士学校における情報活用のための情報処理学
加藤 穣慈(大学院歯学研究科 口腔分化発育情報学講座
口腔解剖学第一教室)
歯学部には、歯科技工士を養成するための歯科技工士学校があり、1960 (昭和35) 年 に大阪大学の附属学校の一つとして設立されている。修業年限が2年であり、1学年は僅か20名で、吹田キャンパス内の歯学部内に位置している。学生は歯科診療におけるチームアプローチを実際に体験し、卒後は歯科技工士として、国内外で活躍している。詳細はhttp://www.dent.osaka-u.ac.jp/~dentec/にも掲載されている。
本学校の講義では、理論をもとに技工物作成過程を詳細に学ぶ。講義内容としては、一年生では入学当初から、専門的な内容の講義がその大半を占める。その専門的な内容として、歯科理工学、解剖学、有床義歯学、歯冠修復学がほとんどであるが、情報処理学や造形美術概論もある。また、二年生では、技工学の実習が9割を占める。技工士は、理論に基づき、習熟した技で、口腔内に装着される技工物を作成する。しかし、卒業までの間にパソコンを用いてデータの収集や解析をはじめとして、歯科技工に直接関与するパソコン利用はこれまでのところない。また、本学校では、二年間で修学するため、入学当初より就職先の情報を集め始める。就職案内をホームページを通じて行っているところが多いため、就職活動に利用している学生は少なくない。また、近年、技工士を取り巻く環境のもとでは、在庫管理や、技工物の発注元などのデータ管理、経理面での管理、技工所のホームページ作成などパソコンが多く用いられており、パソコンを用いない環境は考え難い。そこで、パソコンをつかいこなすためにも情報処理学は必須である。
技工士学校の学生は20名、講義時間は1回90分、回数は10回に満たない。学生のパソコンの経験程度は様々であり、キーボードやマウスを初めて操作する学生が大半を占める。しかし、既に自分のホームページを公開していたり、パソコンの操作に習熟している学生も年々増加している。そこで、受講生に対して、パソコンの操作に習熟させ、卒後にパソコンを使いこなし、情報収集と処理、情報発信を容易に行える技術と能力とを習得させることに目的がある。
講義内容は以下の通りである。
演習・講義目的とその内容の説明
CMC端末の利用登録と諸注意
パソコンのハードウェアの概説
ログイン・ログアウトの方法
半角英字および全角文字の入力方法
記録媒体の操作方法
メールの送受信、添付ファイルの操作
インターネット接続と情報の収集とその選択
作図
表計算および作表
ケースプレゼンテーション
ホームページに各自の意見と情報を盛り込んでの作成
ホームページの公開
それぞれの講義毎の課題の提出とその評価
講義では上記の課題に対して、各自の理想とする文章や画像を作り上げて行くために、各自がパソコンに向かい、遭遇した問題点を自ら解決することとなる。このような問題提議型の講義をすることにより、受講生は、発生した問題を明確にし、それを解決した際の喜びが、次の作業へと導いて行くこととなる。
実際、講義中には、受講生が20名の少人数制であることを大いに利用し、質問の対して直接その場に出向き、そこで、問題点を明確にし、それを解決する方法とその解決法の見つけ方を指導している。受講生の中には、自ら積極的に質問してくる学生が少なくない。その一方、受講生には、問題点が発生しても、その問題点が何であるかを明確に出来ず、さらに問題点発生について、自らその事実を発信できないものも少なくない。そのためには講義中に、学生1人ずつを丁寧に見て回り、課題の進捗状況を詳細に把握すべく努力が要求されている。また、情報処理学では、歯科技工に関した講義を講師から一方的に受けるのではなく、講義の課題に対して、自分の目的とする構想通りの目標に向かって、発生した問題点を明確にした上で解決法を模索し対応、さらに一歩進むこととなる。技工士を志す学生は、本来もの造り上げて行くことを得意としているため、こうした作業は難なくこなすことが出来る。
受講生の講義時間外のサイバーメディアセンター(CMC)の端末利用は、日常のメールの確認のみならず、講義毎の課題について、全員が該当講義時間内に課題が提出済みであるにも関わらず、提出期限にまでに時間の余裕のある場合は、該当講義時間以外にも、歯学部内に設置されているサイバーメディアセンターの三台の端末に向かい、夕方の通常の講義終了時刻から、夜遅くまで作業する光景を目にする。歯学部内に設置されている端末が三台ともフル稼働している時もある。これら三台でも不足している際には、CMCの吹田分室や、図書館の分散端末に駆け込んでいる学生も多く見られる。このようにして、全ての学生が、与えられた課題に対して、受動的に対応しているのではなく、積極的課題をこなしている。よって、受講生の態度と受取り方は、概して好評である。
本講義では、技工士としての歯科技工物の作成とは全く異なり、自由な着眼と発想に基づき作成した課題を提出させるため、生き生きとした受講態度が見受けられる。本講義に採用している問題提議型の講義を通じて、自ら問題を解決する能力をも養い、卒後のパソコンを用いた情報活用が期待される。