情報教育システム利用者の声
工学部船舶海洋工学科・情報処理演習について
野澤和男(大学院工学研究科船舶海洋工学専攻)
1.はじめに
サイバーメディアセンター吹田分館を利用して船舶海洋工学科情報処理演習(B2:3セメスター)を私達が担当し始めて3年になる。この間もコンピュータの猛烈な発展により、情報化社会、IT社会、IT革命などの言葉が社会の隅々まで飛び交い、拡大し、インターネットの普及率は格段と伸びた。プロンプトが不気味に点滅した黒い画面に一人向き合って孤独にコンピュータに向かった姿は、明るい液晶画面をもつコンピュータに楽しく向かう姿に取って変わり,個人的な利用からネットワークを通した集団的利用に、そして情報収集・交換、数値計算はもとより、その気になれば出来ないことが無いくらいの強い味方をとなり、社会に不可欠な道具となった。
しかし、情報化社会におけるコンピュータの爆発的な発展と利用形態の多様化は日進月歩で、言葉の定義より行動が先行し、強力だが掴み所が無く得体の知れない対象にもなってきた。”情報処理って何?”と聞かれたら即答に困るほど多様な答えが沢山あり過ぎるのである。因みに、辞典で調べてみると、「データを一定の手順で(コンピュータにて自動的に)処理し,目的に応じて必要情報を整える作業。Data
processingという。……」と抽象的ではあるが、さすが要領よく纏めてある。担当教官としては、まず、このような大まかな定義を自問自答して,学生と同じベクトルの上に乗る。その上で各論的であるが、「例えば、君等が計測した沢山の実験データを数式で近似したい時があるよね。…」などと、応用例を説明するよう心掛ける事が大切であると考えている。
そこで、今年は次のような準備を行い、概論と講義・演習に入った。
- 現在、高校(技術系)ではどんな情報技術の授業を受けているのかを知るために数冊の教科書を買い求め、情報技術とは、マルチメディアとは、情報革命とは、などの記述の現状確認をする。
- 担当教官(野澤、鈴木博善、箕浦宗彦)の間で討論し、情報処理演習の指導のフローを議論し、資料の作成分担を確認した。
- IT時代の情報処理演習に相応しく、昨年、使用していたOHPからPowerpointの講義に変えた。単に、講義のみならず、アニメの含まれた卒論生の論文を幾つか紹介した。これにより授業当初に言葉だけでなくマルチメディア(multimedia:音声・文字・静止画・動画の4つのメディアを同時に扱う)としての情報処理の目的、内容、価値を徐々に理解してもらう。
2.概論・講義
1) 概論
- 情報化社会とコンピュータ
コンピュータの歴史と特徴、社会における利用、情報と社会、何故IT革命なのか?
- 情報処理の目的
情報収集、情報整理、科学計算とシミュレーション、設計への利用
- 船舶海洋工学科での利用例
講義での利用、卒業研究(計算・実験データ整理)、卒業発表の例
など、授業の初期段階で情報処理演習の実感が得られるように,Power pointやビデオで説明する。
2) 講義風演習
- コンピュータの基礎知識:コンピュータの種類、パソコンなど
- プログラムとフローチャート:プログラム言語、フローチャートとは、フローチャートの演習
- コンピュータ操作法:サイバーメディアセンター利用の手引き、ログイン・ログアウト…など
- 簡単なステートメント:C言語の骨格、FOR、IF、INPUT,OUTPUT等の記述法
- プログラム作成:上記のステートメントを利用して、最小二乗法のプログラムを作る。
以上の講義風演習を8回ほど行い、次の2つの演習を行ってレポートを作成する。
3.プログラミング演習
1) 円柱周りの流線――>流れはこうなっているのか。しかし、実際と異なるところもあるな。
円柱周りのポテンシャル流れは,流体力学でも最も基礎的な流れの一つである,講義で習うものの手計算では複雑すぎて実際に流線を描いて見る者は少なかった。流れの性質を知るためには,自分で流線を描いてみることが一番良い。そのような理由から,円柱周りポテンシャル流れの流線を描くことを課題としている。さらに,この課題では,1つの問題に対して複数の解法が存在することを示す。流線は,速度場がわかれば,常微分方程式を解くことで得られ,流線関数が既知の場合には,その等値線として表現できる。このように物事を複眼的に理解することも体験してもらう。上記2つの方法を用いて流線を計算するプログラムを作り、計算結果を作画させレポートにまとめさせる。円柱の周りの流線群をみて、はじめて「流れはこうなっているのか」を知り感心するも学生がいるであろう。しかし、これは理想流体中の流れであり、実在の粘性流体中では、レオナルド・ダ・ヴィンチがスケッチしたように、円柱の後方には渦が出来ることを一言付け加える。だが、情報処理の勉強を進め、計算技術を習得すれば実現象の再現がこのパソコンでも可能となることを強調しよう。本演習では数値の羅列から物理を読みとる力を少しでも養成したいが、どの程度達成できているのであろうか。
なお、サイバーディアセンターのソフトに関する希望としては、もう少しグラフィック環境が整備できて,流線等々の曲線群が容易に書けるようになれば,良いと感じている。
2) 任意波形のフーリエ展開――>複雑な波形も単純な波形の重ね合わせなんだな。
コンピュータ言語によるプログラミングは、工学の原点である物作りに通じる。物作りには高度な論理的思考が要求される。例えば、柱と梁を組み合わせるとき、ここを出っ張らせて、そこを削れば、隙間なく組み合わせることができる、そのためには、そこをこれだけ削ればよい・・・というように。そして、その過程には、先人たちが考えた物の仕組みに対する驚きがあり、それを利用してあるいは改良して新しいものを創造しようと挑戦し、完成した暁には大きな喜びを得る。ただし、工夫には非常な努力と忍耐が必要となる。本演習では、この論理的思考と「驚き→工夫(努力)→喜び」の過程を大切にしている。
学生には、まず簡単なアルゴリズムを示す。例えば、
を計算するには
for(i=1;i<11;i++){x=x+i}
とプログラミングすればよいことを紹介する。すると、学生は「なるほど!! そうなのか」と「驚き」を示す。「それではこれを利用してフーリエ級数展開のプログラムを作りなさい。」というと、はたと困った顔をする。しかし、「驚き」を経験しているので、簡単にはあきらめず、何とか「工夫」しようと努力する。この「驚き」が大きいほど、「工夫」のための努力と忍耐が長続きするようである。一人熟考する者、友人同士相談する者それぞれである。それでも挫折しそうな学生には、マンツーマンで順序立てて根気よく指導する。彼らは論理的思考に慣れていないだけで、ひとつの方法を示してやれば、後はその方法を応用して自分でプログラミングできるようになる。フーリエ級数展開は数式では簡単に書けるが、それをプログラミングするのは、数値積分や配列の知識が必要となり、少々複雑である。なんとか工夫して、プログラムを完成させ、元の波形を再現させたときには、それは「喜び」となり、得意げに結果を持ってくる。有難いことに、流体力学も数学も「式の展開」だけでなく、「形」にして実感し理解する時代になった。この利点を教えるのが情報処理演習の目的の一つであろう。あるソフトハウスの社長に学生に求めるものは何かと問いかけたところ、アルゴリズムを自らの頭で考え出す論理的思考能力であるという答えが返ってきた。学生が「プログラミング」を通して論理的思考能力を鍛えてくれれば幸いである。
以上、サイバーメディアセンターを利用した私達の情報処理演習の実際を述べました。発展するIT社会においては日々私たちも学ばねばならないことが増大して行く事と痛感しています。しかし私たちの時間は一定に流れています。担当教官のみならずサイバーメディアセンターの各位と共に情報交換を行い、学生がたくましく成育していくために役立つ情報処理演習とは何かを、共に考えて行くことが今後ますます大切だと考えています。