授業担当教官の声

情報処理教育のための計算機利用を通じて


戸出 英樹(工学研究科 情報システム工学専攻)

1.はじめに

 正式な講義担当教官が在外研究員で長期出張されることとなったため、今年度の工学部電子情報エネルギー工学科1年生約220名を対象とする情報処理演習Iを塚本昌彦助教授と共に担当することとなりました。折しも、サイバーメディアセンターの情報教育用計算機システムが、Nextベースの従来のシステムからUNIXベースのシステムに更新されました。そこで、計算機演習を通じての講義の感想と共に、簡単ながら新システムの感想も執筆させて頂きます。

2.講義内容

情報処理演習Iの講義は、第Iセメスターに豊中教育実習棟内の2教室を同時使用して実施されます。端末数の制限上、対象学生を火曜日3限と金曜日3限の週2回に分け、同一内容の講義を実施します。講義内容の概要は以下の通りです。 どの項目も情報処理に不可欠な基本技術です。各項目を基本的に3~4週程度でこなす必要があるため、必要最低限の説明を行った後、学生各自の自習を想定して課題に取り組んでもらう形式をとっています。

3.新システムに関する感想

 以前のNextベースのシステムは更新され、今年度の演習からLinuxのシステムを利用することとなりました。本学科の研究室の大部分では、UNIXベースのOSが稼動する計算機システムが導入され、実際に研究に応用されています。そのため新システムは、指導教官側からは非常に使い易く電子情報エネルギー工学科の学生にとっても実用的なシステムであると言えます。担当科目は対象人数が多いため、講義毎に2名のTA学生を採用していますが、TA学生からも「使い勝手」に関する不平は聞かれませんでした。これも日頃慣れ親しんでいるUNIXベースであることに起因すると考えられます。UNIXベースの計算機は本来、様々な処理をキャラクタベースのコマンド入力で行います。しかし、新システムはウィンドウ環境も使いやすく設定されています。つまり、UNIXシステムに不慣れな学生には、ユーザフレンドリなウィンドウ環境の各種メニューからマウスで選択することにより、また、本格的に計算機を使用する学生には、端末ウィンドウからの直接コマンド入力によっても各種操作が可能です。その面で新システムは、学生のスキルに応じた柔軟な利用が可能であると言えます。
 一方、本来UNIXベースのシステムは安定性で定評がありますが、パソコンベースの大規模システムであることに加えて、新規導入してから日が浅いためか、実際に運用してちらほら計算機のトラブルに見舞われました。しかし、新システムには、頻発するトラブルに対するFAQが用意されており、日本語入力環境、ウィンドウ環境など、症状に応じた個別の初期化手順が簡単に実行できるように配慮されていることから、非常にスムーズにトラブルに対処できるケースが大部分でした。キーボード入力ができない、いわゆる「凍りついた」ケースでも別の端末から学生に遠隔入力してもらい、プロセスを接続することで対応できました。厄介だったのは、不特定の学生が計算機の凍りついた状態で放置してしまっているケースです。この場合は、事務室を通じて対処して頂きました。このように、新システムはトラブルに対する対応も比較的行いやすいと思われます。

4.講義に関する感想

 前述の通り情報処理演習Iは、新1年生を対象として3,4週単位で異なる演習課題に取り組む形態で講義を進行していますが、世間一般にコンピュータがかなり普及してきたこともあり、入学以前における計算機操作経験の有無により、学生の計算機や演習項目自体に対するスキルの差が顕著であると感じました。そのため、演習時の進行や課題内容にある程度の工夫が必要かと思われます。私の場合、課題自体はある程度簡易なものとし、初心者でもそれなりに(自分で)勉強して取り組めば形になること、上級者に対しては、いろいろなアイデアを加える余地があり、所定の時間を課題の発展に費やせることに注意しました。ホームページ作成の課題では、WWWブラウザによるインターネット検索を通して様々なツールやテクニック、さらにはコンテンツの題材を自己学習し、最終的には特定のテーマに関する作品を仕上げるといった創成的活動を促します。この課題ではスキルに応じた完成度が期待できます。また、C言語の単純な課題などでも、入力に自由度をもたせることや機能自体を発展的に拡張させることは容易です。できるだけ学生に頭を使ってもらうよう心がけました。なお、C言語習得のためWWWブラウザにより適切なサイトを閲覧しつつ課題に取り組む姿もみられました。
 講義時間の制約上、課題の背景知識に対しては基本的な説明のみに限定されてしまいます。また、課題内容自体もかなり平易なものになっています。私の学生時代の経験上、1年生は比較的時間に余裕がありましたので、講義中、学生に対し上記の主旨の説明を行い、特にC言語は、主要プログラミング言語として今後の演習・実験や研究に必要であるため、適当な参考書を1冊購入し、夏休みを利用して習得するとよいとのアドバイスを与えました。
 演習の時間中、教室内を見回りながら質問などに応答しているのですが、熟練レベルは異なるものの大部分の学生からモチベーションを感じることができました。特に、複数の学生からプログラミング言語習得に関するアドバイスを求める電子メールが寄せられました。このような姿勢からも学生のやる気が感じられます。ただ、一部の学生の中で、ホームページを閲覧して演習時間をつぶしている人も見受けられました。

5.おわりに

 以上、雑駁ながら、情報処理演習Iでのセンター利用を通じての感想を述べさせて頂きました。限られた時間内で効率的な演習を行うため、学生の「やる気」を出させてできる限り熟練度を向上させるよう、ガイダンス内容などにもさらなる工夫が必要かと思われます。最後に、学生の課題に対する取り組みに関しては、やはり初歩的なミスなどによるエラーが多く、TAの学生諸君には教官と並行してこうした苦情に適切に対応して頂きました。TA学生諸君には非常に感謝しています。