各研究部門の紹介と抱負
コンピュータ実験科学研究部門
コンピュータ実験科学研究部門は、サイバーメディアセンター設立にあたって、コンピュータリテラシーと専門的研究の間をつなぎ、現実社会の新たな問題に対する数理モデル化・解析・検証法をコンピュータを主たる道具として教育・研究することを目的とし設立されています。この設立にあたっては、これまで理学研究科数学教室が培ってきた実験数学の考え方が大きく取り入れられ、他の大学には無い独自の研究部門の一つとなっています。現実の情報化社会の新たな問題を設定し解決するためには、3階層の教育研究分野を学際的に関連づけ新たに確立していく必要がでてきています。そのひとつは、基礎的数学モデル、物理モデルや新規アルゴリズムの研究分野と、どのようにコンピュータモデルを構成していくかを研究する分野を連動させていくことです。他の一つは構成されたコンピュータモデルを発見的に利用して現実社会における問題の設定・解決をどのように進めていくかを考える分野です。
情報化社会の進展に伴って、その必要性からこの方向性を具現化しているいくつかの例があります。たとえば、整数論の分野における有限体上の代数群の研究は暗号化アルゴリズムの基礎をなし、さらに、その暗号化アルゴリズムはハード・ソフト的に情報セキュリティー分野に広く行き渡っています。また、非線形偏微分方程式論の中の一つであるポアソンーボルツマン方程式系の研究は半導体内輸送現象に深くかかわり、計算数学を駆使した半導体コンピュータモデルの構成から、さらに、半導体コンピュータモデルを統合して新たな情報集積システム開発を支える設計システムへと進化していっています。
このような3階層にまたがる流れは、今後、様々な分野で加速度的に広がっていくと考えられますし、それに伴って、普遍的手法として情報教育へ反映していくことも欠かせません。また、この流れの向きを変えた取り組みも今後重要になってくると思われます。さらに、コンピュータモデルの構成を考える上で、主たる道具であるコンピュータ自体も個人向けPCからスーパーコンピュータ・超並列コンピュータまでの広がりをもち、そのコンピューティング性能やコミュニケーション性能も日々進化・変貌しています。
このような新たな状況の下、コンピュータ実験科学研究部門は、コンピュータリテラシー教育をふまえて、それに続く理系向けの新たな情報教育を考えていきたいと思っています。そのためには、大規模数学モデルの一つである半導体コンピュータモデルでの研究を生かし、その手法を“コンピュータ実験科学”として確立して行きたいと思っています。コンピュータ実験による現実社会における問題設定・解決の実践は理学・工学・情報学などの接点にあります。様々な研究分野の皆様と協力して教育・研究を進めていきたいと思っていますので、気楽に声をかけていただければ幸甚です。