サイバーメディアセンターへの期待
熊谷 貞俊(工学研究科)
kumagai@twr.eng.
1.はじめに
平成12年4月より大型計算機センター、情報処理教育センター、附属図書館(一部)が再構成され、理学研究科、工学研究科、基礎工学研究科、言語文化研究科などの研究機関、部局との協力体制のもとで「サイバーメディアセンター」が発足した。新センターの組織、目的については「阪大NOW」6月号に掲載されているのでその全容が理解できる。本来目的の異なる機関の統合であるから、よほど明確な統合理念がなければ将来の発展が期待できるようなスムーズな運営が難しいのではないかと危惧されるが、ここではこのような心配が杞憂である事を願って、新センターへの期待と勝手な注文を述べてみたい。
2.センターの呼称について
新しい組織や機関の設立にあたって、まずその呼称をどうするかはいつも問題になることである。とくに既存の複数の機関を統合する場合は、なかなかピッタリの呼称を考えつくことは難しい。いきおいいまの大学科の名前のように、既存機関の名前を並べたものになりがちである。その結果、統合の理念が希薄となり、目的が外部から極めて分かりにくい機関となる。まさに名は体を表すで、名称もなかなか馬鹿にならないが、その点、新センターの名称は他に例を見ないユニークなもので、よく工夫されたと思うが、和製造語であるだけに中身が分かりやすいかといえば、必ずしもそうではない。とくに、外国から見た場合、だうであろうか。サイバーメディアセンターといえば文字通り「電脳メディア」と解釈されると思われるが、「メディア」を機関、媒介手段(インターフェース)と解釈すれば、電脳(なぜか日本では計算機というと狭く解釈される)と通信にあらゆる形態(そのうちには五感も?)の情報処理と伝達を分かりやすいかたちで可能にし、またこのようなシステムの構築、教育、支援を行うセンターということになり、私の勝手な解釈では、はなはだピッタリの呼称ではないかと感心している。
3.新センターへの期待
それでは、このような目的、使命ををもったセンターへの期待はどのようなものになるでありうか。たとえば、大型計算機せんたーの担っていた大規模科学技術計算分野での、新センターへの期待は、やはり最大最速の計算パワーと、数値計算、可視化のための強力なソフトウェア開発支援である。国立各研究所にはグループ内の無料使用が可能な大規模計算資源もあって、比較的高価なセンターのスーパーコンピュータ利用が減少しているのは従来からの傾向であるが、国家プロジェクト規模の戦略的研究には超大規模の計算パワーが不可欠であり、国家支援体制の整備されたセンターの重要性は今後ますます増大するものと思われる大規模数値計算ノウハウの蓄積と公開をとおして、他機関への利用サービスの拡大と、センターへの計算資源の集約強力に推進して頂きたいものと希望している。また、利用方法も従来から工夫されていることではあるが、定額で一貫利用(ノード貸し)なども積極的に宣伝されれば学内外の潜在的利用者にとっても有り難いことである。関西なかんずく千里地区は世界のバイオ研究の拠点の一つであるが、情報学的アプローチと計算機応用が不可欠になりつつあるこの分野への新センターの貢献も期待されるところである。関連諸機関の超高速計算機の協同購入、協同研究、運用も視野に入れれば面白い発展が期待できるように思われる。
以上は、研究部門を拡充された新センターへの期待であるが、情報処理教育、言語教育、図書館などの教育や利用サービスについては、旧機関や関連機関との協力でより効果的な利用形態となるよう御協力をお願いしたい。SCSなどは、ODINS整備が一応の完成をみた現在、その有効利用に苦労されているようである。利用目的に合致した効果的方法がなければ、設備に使われる結果となり、むしろ逆効果となる恐れがある。利用目的や効果が減退した場合は、設備利用を中止するなどつねに利用状況の評価と再検討を行う必要があろう。むしろ、各教室へのファイバー敷設、無線LAN利用などで、学内のどこからでも接続可能なようにODINSを拡充することなどが新センターの任務として期待される。満員の情報処理教育センターに行かなければ端末が使えないようなことでは、情報処理教育など大きな口がきけたものではない。欧米の大学センターやホールにはマルチメディア情報端末が設置されており、来訪者は誰でも、必要情報が読めるようになっている。SCSなどは悪い例であるが、このような設備の無理な利用に頭を悩ますかわりに、上記のような効果的な情報化整備に注力すべきであり、新センターにはその推進機関になられることを期待する。
4.おわりに
新センターが発足して、なにがいままでとひと味違うかが、これから期待とともにとわれることになる。7部門もの研究部門が拡充され、悲願であった研究体制、開発支援体制も整った。あとは、なにが今必要かが明確に意識され、その明確な目的に向けて大センターとして一致協力され、目に見える効果を発揮される事として、拙稿を終わります。
村上 孝三(工学研究科情報システム工学専攻)
murakami@ise.eng.
大阪大学サイバーメディアセンターの開設を心よりお祝い申し上げます。
情報ネットワーク社会となることが疑いのない、新世紀に向かうこの時期にまさに時宜を得た組織として、大きな役割を果たしていただきたいと念願します。新入生のアンケートでも、「サイバーメディアセンターという先進的組織をもった大阪大学に入って本当に感激している」という声が寄せられたそうで、若い世代にも大阪大学の先進性を表すものとして大きなインパクトを与えるものと確信します。
さて、ご承知のように、情報通信技術のとどまるところを知らない発展は、経済社会に、IT革命とも呼ぶべきパラダイムシフトを現出させつつあります。その最たるものが、サイバースペース、サイバーソサイエティと呼ばれ、世界中のコンピュータが結合されたインターネット上での仮想現実によるネットワーク社会です。電子商取引、在宅勤務、遠隔教育、遠隔医療等さまざまな実験が世界規模で実施され、必要な技術の開発が急ピッチで進んでいるのが現状です。商慣習、セキュリティ、倫理、道徳、法整備、勤労、生活というあらゆる観点から新しい社会の構築に向けた様々な試みが行われています。
しかしながら、このままサイバーソサイエティに向かって突き進むには、数多くの問題点が露見していることも、ご承知の通りです。これまでの10年はあまりにも経済原則主導での研究開発に偏在したため、地球インフラとしての人間性、社会性の観点からの研究開発が不十分であったということが指摘できると思います。折りしも、沖縄サミットにおいてこの点が議題にあがるようですが、遅きに失した感をぬぐえません。
サイバースペースへの進化の最大の原動力は、情報ネットワーク技術です。ネットワークの分野では、ここ数年の波長多重型光通信技術の大発展により、高品位映像が自由に飛び交うにも十分なテラビット級の超大容量通信回線の実用化の目処が立っています。それに比べて大幅に立ち遅れていた通信ノードシステムについても、光技術によるルーティング方式の研究開発が急ピッチで進められており、フォトニックネットワークと呼ばれる全光型の大容量、超高速な情報通信ネットワークの実現もそう遠くないことでしょう。
このまま技術開発を進めていくと、サイバースペースでは、居ながらにしてあらゆる用が足せるようになりでしょう。IST(高度交通システム)によりトラックは無人運転となり、FMS、CALSにより工場は全コンピュータ化され、家庭では、情報家電の代表として情報冷蔵庫が開発され、庫内の在庫を検知して、食事のレシピの提案、在庫切れ食品の自動発注などといった機能がまじめに研究されている有様です。全コンピュータ化された物流と連動することにより、製造、出荷、流通まで含めて、人間が動く必要がまったくなくなってしまいます。まさか、ゴルフやスポーツ活動までが全コンピュータされることはないでしょうから、人間が動くのはスポーツに興じる時のみになります。スポーツが好きでない人は、どうなるのでしょう。
このような現象は、各分野の専門家が、自分の専門分野を徹底的に突き詰めていった結果の成果を、単に相互結合するとこのようなシステムに結末してしまう、ということだと思います。サイバースペースはリアル世界との共生によってのみ、真に人間社会の役に立つものになりうると思います。
現代の問題はまさにこの点にあり、各専門分野の人たちが、専門分野を越えて交流、議論し、大局的見地から未来社会のグランドデザインを行うべき重大な時期にあると思います。サイバーメディアセンターは、既存の研究科、学部体制では不可能な、まさにこのような問題に対する解決法を見出す責任と役割を担っていただきたいと念願します。サイバースペースを反面教師としてというと語弊がありますが、サイバースペースとリアルワールドの共生により、あくまでフェイスツーフェイスとスキンシップが永遠に第一義である社会の構築に向けて、輝かしい未来を創造するための実験の場を提供していただきたいと思います。
私の研究室では、ホロニックネットワークという新しいパラダイムに基づく情報ネットワークの研究を進めております。次世代インターネットという地球レベルの大規模ネットワークインフラでは、世界ネットワークを集中制御することは困難であり、私たちは、ネットワーク個々の構成要素は、独自の価値観に基づいて動作しながらも、ネットワーク全体として、それなりの秩序を持った並列分散協調型のネットワーク構成技術が重要と考えています。それが、ホロニックという語源です。この研究のテストベッド実験等でも、ご協力とご支援を期待しております。
また、機を同じくして、工学研究科では、研究連携推進室が発足しました。この新組織は、産官学連携部門と私が兼任する情報ネットワーク部門を車の両輪として、工学研究科の戦略的インフラとしての情報ネットワークの構築とそれをベースにした産官学連携の活性化により、工学技術の社会への貢献を促進しようとするものです。この面でも、緊密な関係を持って、ご指導、ご協力をいただきたいと思います。
以上、サイバーメディアセンターの輝かしい門出に当たり、私の大いなる期待を述べさせていただきました。