データグリッド基盤システムについて
加藤 精一(大阪大学サイバーメディアセンター 応用情報システム研究部門)
1. はじめに
2003年1月、サイバーメディアセンター吹田地区を中心にデータグリッド基盤システムが整備された。データグリッド基盤システムは、本センターが中心となって研究開発を行っているグリッドコンピューティング技術による共同研究環境の基盤として導入された。最近、様々な分野において理論研究者と実験・観測研究者が協力して1つの問題に取り組むという機運が高まっているが、現状ではお互いに離れた研究機関で得られたシミュレーションや実験などの大量のデータを共有し、容易に解析、可視化する環境の構築はなされていない。本システムでは、このような共同研究における要求を満たすために、大規模データの高速な解析処理やセキュリティを伴ったデータ共有、データの可視化をスムーズに行う機能を提供している。
本システムは、データグリッド蓄積・解析システム、表示システム(CAVEシステム)、小型ドーム表示システム、多人数視点共有立体表示システム、超高圧電子顕微鏡高精細画像記録システム、及びこれらの装置とスーパーコンピューターを接続する高速ネットワーク装置で構成され、本センター実験棟(データグリッド蓄積・解析システム、表示システム)、サイバーメディアセンター豊中教育研究棟教育メディア実験室(データグリッド視点共有立体表示システム、データグリッド小型ドーム表示システム)、超高圧電子顕微鏡センター(高精細画像記録システム)、サイバーメディアセンター・レーザー核融合研究センター(高速ネットワーク接続装置)に設置されている。
本稿では、特に可視化装置であるCAVEシステム、小型ドーム表示システム、多人数視点共有立体表示システムについて紹介し、本システムが今後どのような形で使用されていくかについて述べる。
2. 可視化装置
2.1. CAVEシステム
本システムの中核をなす設備で、2.4m立方の箱型スクリーンに前、左右、床の4面立体映像を表示するCAVE表示装置(写真1)、CAVEに表示する可視化映像を生成するグラフィックスワークステーション(SGIOnyx300 InfineteReality3 3PIPE, 写真2左)、可視化データを蓄積するディスクアレイ装置(SGI TP9100, 11TB, 写真2右)で構成されている。
CAVE表示装置は、イリノイ大学で開発されたCAVEライブラリが導入され、各種CAVE用のソフトウェアを実行することができ、ライブラリによりOpenGL で表示可能な独自のアプリケーションがあればCAVEへの表示行うアプリケーションへの移植を容易に行うことができる。一方では、利用者の便を図るために可視化ソフトウェアであるAVSのCAVEバージョンが導入されており、AVSで表示可能なデータ形式であれば、そのままCAVEで表示することが可能である。 本システムのAVSには一般的なCADのデータを読み込むモジュールも追加されている。写真4はAVSを用いて可視化した分子モデルのCAVEによる可視化の例である。従来CAVEを利用したソフトウェアを開発する場合は、CAVEが設置された場所まで足を運ぶ必要があったが、本システムでは遠隔でのプログラム開発が可能なようにOpenGL Vizserverを導入し、遠隔からのソフトウェア開発専用のグラフィックスパイプ1本を確保しているため、利用者は遠隔地の計算機でOnyx300の表示結果を確認しながら各種ソフトウェアを実行することができ、シミュレーションモードを利用すればCAVEのコントローラーの操作も遠隔地からキーボード、マウスを用いて可能になっている。
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| 写真1 CAVEスクリーン外観 |
写真2 Onyx300(左)とTP9100(右) |
写真3 CAVEコンソール |
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| 写真4 CAVE利用の例 |
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写真5 分子モデル可視化例 |
2.2. 小型ドーム表示装置
データグリッド小型ドーム表示システム(CyberDome1800:松下電工、写真6)は、1.8mのドームをスクリーンに持つ表示装置であり、他の可視化装置と同様に各種科学技術計算結果を臨場感豊かに可視化し提示するための小型ドームスクリーンである。ドームスクリーンの上方に2台のプロジェクタを配置し、ミラーで折り返してスクリーンへの投影を行なうことで、左右投影範囲120度以上、上下投影範囲80度以上の広視野角立体視表示を可能としている。
CyberDome を用いることで、比較的小さな設置面積で、広視野の臨場感豊かな3次元CG映像を立体視することが可能となり、高速なネットワークで接続された、CAVEシステムと連携して、3次元データを共有して観察することもできる。

写真6 小型ドーム表示装置
2.3. 多人数視点共有型立体表示装置
多人数視点共有型立体表示装置(IllusionHole、写真7)は、データグリッドの蓄積・解析システム等で処理されたデータを可視化したものを、4名の観察者がそれぞれの視点で共有して観察することのできる立体視表示システムである。同装置は、大阪大学岸野研究室で開発されたもので、上向きの水平な大型ディスプレイの上に、中央に穴の開いた遮蔽板を配置した構造を特徴としている。この装置は、覗き込む位置によって遮蔽板を通して見えるディスプレイのエリアが異なることを利用して、複数のユーザがそれぞれの視点で様々な3次元のデータを偏光メガネによって立体視することが可能となっている。CAVEほど大掛かりな装置を必要とせず、比較的小規模のデータの可視化に効果的に用いることが可能で、本装置は、サイバーメディアセンター豊中教育研究棟に設置されている。

写真7 多人数視点共有型立体表示装置
3. 共同研究開発環境として
本システムはデータグリッドの基盤システムとして導入された。データグリッドは離れた場所にある研究機関のシミュレーション、実験などで得られたデータを共有する技術である。データは分散されたままであるが、ユーザーにとってはローカルなデータベースにアクセスするのと変わらず、多数の機関にまたがるデータでも、目前の端末にログインするだけでセキュアに使用することが可能になる。またデータがどこにあるかをユーザーが詳しく知る必要もない。
このような特徴を生かし、現在本センターで行われているタンパク質の構造解析から創薬までを視野にいれたバイオグリッドプロジェクト(
http://www.biogrid.jp/)、MEG、高電圧電子顕微鏡センター、高度光実験施設、天体望遠鏡など様々な分野の研究施設、実験・観測機器を接続し(図1、図2)、実験・観測機器の遠隔操作や、研究に必要な一連の解析、可視化作業を可能にするグリッドポータルの開発を行っていく予定である。
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| 図1 研究機関との接続 |
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図2 共同研究環境の例 |
4. まとめ
本稿では、今年1月に導入されたデータグリッド基盤システム、特に可視化システムの概要についてと今後の利用について述べた。本センターにはグリッド技術を用いたこのような共同研究環境の要望が多く来ている。導入されたシステムを元に、共同研究環境の構築に必要な情報技術の開発を行っていく中で、総合大学に位置する利点を生かし、様々な分野へ貢献できるようなセンターを目指したい。