業務及び研究の報告

サイバーコミュニティ研究部門
Cybercommunity Division


1.部門スタッフ

教授 吉田勝行
略歴:1964年3月大阪大学工学部構築工学科卒業、同年4月大阪府立大学助手工学部経営工学科、1966年12月大阪大学助手工学部建築工学科、1970年10月大阪大学講師教養部図学科、1986年8月同助教授、1994年3月同教授、1994年4月大阪大学教授工学部建築工学科、1998年4月大阪大学教授大学院工学研究科建築工学専攻、2000年4月大阪大学教授サイバーメディアセンターサイバーコミュニティ研究部門。日本図学会、日本建築学会、ISGG、人工知能学会、日本ディスタンスラーニング学会、日本工学教育協会各会員。

助手 寺田 努
略歴:1997年3月大阪大学工学部情報システム工学科卒業。1999年3月大阪大学大学院工学研究科情報システム工学専攻博士前期課程修了。2000年6月大阪大学大学院工学研究科情報システム工学専攻博士後期課程退学。2000年6月大阪大学助手サイバーメディアセンターサイバーコミュニティ研究部門。情報処理学会、電子情報通信学会各会員。

2.教育および教育研究支援業績


本研究部門の教育に係わる主な活動を、以下に列記する。
  1. 全学共通教育機構で開講する専門基礎教育科目「図学B-Ⅰ」,「図学B-Ⅱ」,「図学実習B-Ⅰ」,主題別教育科目「景観論」,基礎セミナー「コンピューターグラフィックス」,特別科目「マルチメディア時代の図学」を担当した。
  2. 工学研究科建築工学専攻で開講する「建築形態工学」,「建築形態工学演習Ⅰ」,「建築空間生理学」,「建築形態工学特論」を担当すると共に,「建築工学特別講義Ⅰ」,「建築工学ゼミナールⅠ」, 「建築工学ゼミナールⅡ」を分担した。
  3. 全学共通教育機構体験的課題追求型教育科目構築プロジェクトの代表者の一人として,計画案の取り纏めを行うと共に,同プロジェクトの一環として専門基礎教育科目「図学実習B-Ⅱ」を体験的課題追求型教育科目構築プロジェクトにおける体験的授業として第2セメスターに実施すると共に、具体的授業の結果報告を取り纏めるWGの代表者を務めた。
  4. スペースコラボレーションシステム(SCS)の大阪大学内VSAT局大阪3の運営責任者を努めると共に、全学共通教育機構が実施するSCSを用いた授業「ボランティア論」について、VSAT局の操作支援を行った。
  5. VSAT局大阪3におけるSCSを用いた授業「地域経済とベンチャービジネス」(経)、「論文指導」(言)、および教育に関連した講演会ないし会議「最新の視覚研究」(健)、「2001年海外留学フェアに係るセミナーのSCSでの受配信」(研協)、「交流会実施に先立つ双方参加者(国際交流基金関西国際センター・大学)の自己紹介、研究分野に関する情報交換」(文)、「ISS―SCS宇宙講座」(学生部)について予行演習を含めVSAT局の操作支援を計580分間実施した。
  6. 図学教育の改善充実を図る取り組みの一環として、全学共通教育機構特別科目「マルチメディア時代の図学」の実施結果に対する評価と体験的課題追求型授業化に関する研究会を実施し、スペースコラボレーションシステム(SCS)を介して大阪大学・東京大学・北海道大学の3箇所を繋ぐことにより多様なテーマのもと、複数大学の教官による、図学の様々な側面に焦点をあてた講義を演習付きで行い、自身らが人間や社会との関係を総合的に省察する契機を受講生に与え得る目処を得たことを確認するとともに、次年度実施の体験的課題追求型授業科目「問題を解くための可視化と図表現」の授業計画を具体的に構成した。
  7. 平成13年度版全学共通教育機構公式ホームページを作成運用した。
  8. 全学共通教育機構教務委員会委員および同教務委員会予算施設専門委員会委員長を努めた。
(以上、吉田)

3.研究概要: 高度情報化技術に支援されるコミュニティ形態の構成

 パーソナル・コンピューターと、それらを相互に結ぶ高速LANの普及は、カラープリンタ、およびディジタルカメラ等の普及と相俟って、文字のみならず、画像、動画、音声等マルチメディアの複製を自在に生成し不特定多数に安価に配信出来る環境を、社会一般に提供する体制を整えつつある。これは、活版印刷の技術により、文字による文書の不特定多数に対する複製配布が容易となった結果,文字文書の大量使用を前提に社会運営がなされるようになり、それに見合う形で教育制度も整えられて行くといった、過去の大変革に匹敵するようなインパクトが、再び社会にもたらされる可能性があることを意味している。
 本研究部門は,こうした状況下における高度情報化技術に支援されるコミュニティ形態の構成について考究し、サイバーコミュニティのあり得る姿を解き明かして行くことを研究目的とする。そうした目的を達成するため、本研究部門では、現在以下の研究課題に取り組んでいる。

課題1: SCS遠隔教育の企画と運用

SCSは、Space Collaboration Systemの略で、通信衛星を利用して大学間を結ぶ先進的な情報通信ネットワークの名称である。わが国の高等教育を、来るべきマルチメディア社会に対応できるように整備して行く計画の一環として設置されることになり、平成8年10月から試験運用が開始され、さらにその結果を踏まえ、平成9年4月からは本格運用が始められている。
 このシステムの端末が設置された講義室をVSAT(Very Small Aperture Terminal)局と呼ぶが、VSAT局間では互いに映像や音声を双方向にリアルタイムで交換できるので、複数のそうした局どうしを結んで講義や研究会、会議を行うといった使い方が可能である。
 筆者らは、平成8年度第2学期以降、SCSを利用して、北海道大学、東京大学、名古屋大学,大阪大学を相互に接続し、阪大と名大,ないし北大の学生を対象に一般図形科学を内容とする講義を実施して来ている。こうした経験をふまえ,SCSや高速LANを特性に従って組み合わせて使用した遠隔教育および遠隔研修システムのモデルとそれに見合うコースウェアを構築拡張することを、サイバーコミュニティ計画推進の核として行く。

課題2: 建築および建築群の構成に関する研究

ひと纏まりのコミュニティを収容する建物ないし建物群の形態は、設計条件を念頭に置きつつ構成した初期形態を手がかりに、多様な要求が満たされているかどうかを多角的にチェックしては形態を練り直す過程を繰り返す中で見出されてゆく。こうした過程の積み重ねは、従来図面と模型を用いて行われるのが通例であるが、計算機システムの発達により、CAD、および3D-CG、シミュレーション等が実用の域に達し、またその結果をLAN等を介して容易に交換できるため、それらを統合した効率のよい建築設計の形態が求められている。本研究部門では、現実の建築設計過程をシステムとして捉え直すべく詳細に解析すると共に、それを元に高度情報化技術に支援される建築設計過程の構成を考究する。

課題3: 3次元形態の図表現と認知に関する研究

写真、動画、イラストといった図や画像(以下図像と略称)に対する加工が、パーソナル・コンピュータ,カラー・プリンター、ディジタル・カメラなどのハードウェアと画像処理ソフトウェアの普及により容易になり、3次元立体や空間に関する情報伝達のメディアとして、一般にも利用されるようになって来ている。しかし、図の表現法に対する理解を欠いたまま3次元立体や空間に関する図の加工がなされると、思いも寄らない誤りが図中に生じ、情報伝達が阻害される事態が生じることになる。
 身の回りの空間や立体を誤りなく図として表現し、表現された図から3次元の形態に関わる情報を誤りなく読み取るといった図に関するリテラシーは、加工された図が一般に流布する現代において、人々にとって欠くべからざる基礎知識であり、その能力育成はサイバーコミュニティにおける伝達の基盤を構成する上で、文字に関するリテラシー同様に重要であると共に、その知識の一般への普及の観点から教育制度への適用に関する研究が欠かせない。  
 本研究部門では,こうした観点から、3次元形態の図表現と認知およびその教育への適用に関する研究を行う。

課題4: 位置依存サービス提供のためのアクティブデータベースシステムに関する研究

無線通信や計算機ハードウェア技術の急速な発展に伴って、一般のユーザは携帯電話やPDAなどの携帯端末を持ち歩くようになり、屋外でそれらの端末を用いたさまざまなサービスを受けたいという要求は大きくなっている。しかし、提供されるべきサービスは場所によって大きく異なり、場所に応じて動的にサービスを切り替えてその場に応じたサービスを提供する枠組みが必要となる。本研究部門では、データベース技術の一つであるアクティブデータベースを用いて、モバイル環境におけるデータ管理基盤の構築を行っている。

課題5: ユビキタスコンピューティング環境における汎用コンピュータに関する研究

近年のマイクロエレクトロニクス技術の発展や、PDAや情報キオスクなどさまざまな形態のコンピュータの普及により、いつでもどこでもコンピュータにアクセスできるユビキタスコンピューティング環境に対する注目が高まっている。ユビキタスコンピューティング環境ではいたるところにコンピュータが存在し、コンピュータ同士またはコンピュータとユーザが持つ端末とが連携することでさまざまなサービスを提供する。しかし、現在提案されているシステムは互換性がなく、また専用端末であるために汎用性、コスト面での手軽さに問題を抱えている。そこで、本研究部門では安価に多用途で利用できる汎用ユビキタスコンピュータに関する研究を行っている。提案するユビキタスコンピュータはその動作をECAルールと呼ぶ動作記述言語で記述するため、ルールを入れ替えることでさまざまな用途に利用可能である。また小型・軽量であるため、いたるところに組み込まれるユビキタスコンピュータとしての手軽さ、低コスト性を実現している。

課題6: PDAを用いた携帯型エンターテイメント楽器に関する研究

近年のモバイルコンピューティング技術の発展により、ユーザは自分用のPDA(Personal Digital Assistant)を持ち歩くようになった。PDAの用途は多岐に渡り、特に今後は音楽を中心としたエンターテイメント利用の重要性が高まると予想される。しかし、現在の音楽アプリケーションは基本的に聴くだけのものが多く、演奏を楽しんだり周りの音楽に参加するといった能動的なものがほとんど存在していなかった。そこで、本研究ではPDAを用いて、場所を問わずに気軽に音楽演奏を楽しむためのモバイル楽器を構築する。

4.2001年度研究業績

4.1 SCS遠隔教育の企画と運用に関する研究

本年度は、全学共通教育機構特別科目「マルチメディア時代の図学」(第Ⅰセメスター月曜5限2単位)を、北海道大学(VSAT局北海道大学3)及び東京大学(VSAT局東京大学3)と結んで、図形に対する操作を通して図的に表現すると共に、表現された結果からその本質を認識することを目指す講義(1.SCSと図形科学の世界、2.3次元形態の表現、3.見取り図の読み方、4.立体の見取り図作成、5.透視図上の光と影、6.2次元幾何学の源流、7.錯視の科学、8.正投象の技法と切断、9.相貫体の作成、10.ホームページの図形科学、11.正多面体の構成、12.4次元空間の軸測尺、13.4次元超立方体の作図)を演習を交えて実施し、大阪大学側では文,人,法,経,理,医,工,基各学部の1~3年次よりなる受講申請者61名中46名の単位を認定した。なお、北海道大学側は受講生16名で、全員の単位を認定し、東京大学は、教官のみの参加である。
学生側の授業評価により、講義の理解度および科目への興味、満足度等の総合指標に、これまでと比べ向上が見られるものの、他科目と内容に重複のない反面、CRTの字の見易さおよび説明の分かり易さについて工夫の余地ありとの判定が示されている。
 この結果より、意図した講義の目的は一応達成し得たと考えるが、工夫の余地ありと判定された部分は、次年度の実施の際の最留意事項と考える。

図-1 VSAT局大阪大学3におけるSCS授業風景
[関連発表論文]

4.2 建築および建築群の形態構成に関する研究

歩行者の視線に関する調査によれば、一般的に日常空間内で移動中の歩行者の平均注視距離も平均注視高さもある程度一定しており、日常空間内の景観感は部分的な注視によって形成されている可能性がある。本年度は大阪の都心部住宅地内の歩行者空間の景観の特徴を、歩行者が注視する視線位置上にある要素から分析することを試み、歩行者空間の構成要素の割合は、壁・ドア・緑・シャッターの順で壁が全体の3割強であるものの、居住環境の評価で重要と見なされることの多い緑については、壁の1/4弱であることを明らかにした。

[関連発表論文]

4.3 3次元形態の図表現と認知に関する研究

3次元形態の図表現と認知に関する知識の教育への適用の現状と今後の問題について、日本国内のみならず、米、豪、タイ、シンガポール、ラオス等の国々を対象に調査を進め、建築設計専門教育における教育評定(アクレデクテーション)の基準設定の現状について、技術教育の評定機関であるABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)やJABEE(Japan Accreditation Board for Engineering Education)の教育評定基準には、図学および設計製図教育の必要性が、建築専門教育の評定機関であるNAAB(National Architectural Accreditation Board)の教育評定基準や建築家登録試験の実施機関であるNCARB(National Council of Architectural Registration Board)の教育基準ほど明確にうたわれていない、米、豪、タイ、シンガポールにおける建築家および建築技術者教育に占める図学および設計製図教育の割合はほぼ同様で、全修得単位数の約3/10および1/10程度であるが、日本の国立大学の建築専門教育に占める図学および設計製図教育の割合はほぼ1/10で、上記各国の建築技術者教育における割合とほぼ等しい、ラオスにおける学制は他のASEAN諸国と小学校教育が5年生という点で大きく異なっているものの、ラオスと日本の算数の教科書を比較するとラオスの5年次の内容と日本の6年次の内容がほぼ同等であるため、5年制であることがその後の中等および高等教育の進度に大きく影響はしない、空間幾何学が高校2年の段階で導入されているため、大学入学後の図学の修得に有利である、ラオスにおける初等教育の図工科教師を育成するHSS(Hongbian Sangkhu Silpa, School of Fine Art Pedagogy)の教育課程について、図学および設計製図演習では西洋の表現様式の課題のみならず伝統的なラオスの表現様式の課題が重視されており、国民統合という初等教育の目的に合致する教師を育成する内容ではあるものの、将来より高等な教育を受ける素地をこうした人々に作っておくという面で問題があり、一般教育科目と実技演習科目との比を調整する必要がある等の結果を得ている。
 
[関連発表論文]
  1. CHITHPANYA Soukanh, KOMOTO Junko PHONETHIP Pathana, PHOMMAKHOT, Manichan YOSHIDA Katsuyuki “Education for Teachers of Fine Arts in Primary and Secondary Schools in Lao P. D. R.” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp16-21,Jul.2001.
  2. PHONETHIP Pathana, KOMOTO Junko, CHITHPANYA Soukanh, OUTHENTHAPANYA Dasack, YOSHIDA Katsuyuki, “Overview of Geometry and Graphics Education Leading to Architecture Program in LAO P. D. R.” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp45-50, Jul.2001.
  3. KOMOTO Junko, YOSHIDA Katsuyuki, “Correlation of Accreditation Criteria with Practice on Graphics and/or Drawing in Architectural Education” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp77-82, Jul.2001.
また、日本における建築教育課程について、関西に立地するK大理工学部建築学科で開設されている建築コースと環境デザインコースの学生を対象に卒業研究ないし卒業設計のテーマや内容を比較し、両コース間で特に目立った差はない、このことは6~8科目10単位程度の図学および設計製図教育の間でいわゆる技術者教育と建築家教育の差を色濃くしても教育側の担当教員メンバーが同一であり、また受講する側の両コースの学生間に入試の段階で差がない状態では、教育結果に大きな差が生まれないことを意味している。

[関連発表論文]
  1. CHIBANA Koukichi, YOSHIDA Katsuyuki, TAKEYAMA Kazuhiko, “Students' Professional Orientations in the Different Two Programs of Architectural Major” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp27-32, Jul.2001.
建設系の学生を対象とした図学実習の実施について、LINUX上でワイヤーグラフィックによる透視投象の作成を、プログラミングを含めて実施の後、プリントアウトした結果にさらに手書きでテクスチャーや陰影を描き込みプレゼンテーション用の図面として完成させる課題を実施した結果、グラフィックプログラミングの修得に時間がかかるため、透視図の計算機による作成について知識が明箱化する反面、手書きドローイングに使える時間が大幅に圧迫されるため、ショードローイングに修熟させるという演習目的からは、グラフィックスプログラミングの部分を何らかの透視図作成ソフトに置き換えることが望ましい、ショードローイングとしての最終的な作品の仕上がりとグラフィックスプログラミングの成績には明確な相関はない等の結果を得ている。

[関連発表論文]

4.4 位置依存サービス提供のためのアクティブデータベースシステムに関する研究

近年、GPS機器や携帯端末の普及により、屋外で自分の位置を基点とした地理情報システムを利用したいという要求が高まっている。屋外で、情報サーバが無線を用いて地理情報を発信していれば、地理情報システムではそのような受信情報を端末の地図情報と統合し、ユーザに高度なサービスを提供できる。本研究では、アクティブデータベースを用いた地理情報システムActiveGISを構築している。ActiveGISは、ユーザの移動やオブジェクトへの接近といった位置関係の変化をイベントとして検出し、規定された処理を行なうシステムである。アプリケーションの動作はECA(Event-Condition-Action)ルールと呼ばれるアクティブデータベースの動作記述言語を用いて記述される。ECAルールを用いることで、商店街に入ったときに 自動的に特売情報を取得したり、本屋に近づいたときに自動的に探している本がないかどうかを調べるような位置依存アプリケーションが、容易に構築できる。

      図-2 ActiveGISの表示例


     図-3 ECAによるルール記述例


アプリケーションの機能はすべてECAルールで実現されているため、機能の追加・削除やカスタマイズが容易である。また、ActiveGISはECAルールを送受信す
る機能を備えているため、ユーザは個人用の端末を持ち歩き、場所に応じたECAルールを受信して位置依存のサービスを受けることができる。

[関連発表論文]

4.5 PDAを用いた携帯型エンターテイメント機器に関する研究

近年、ゲームセンターなどのアミューズメント施設では音楽系ゲームが大流行している。音楽系ゲームは能動的に音楽を発信するという新しい音楽の楽しみ方を提供しており、このようなアプリケーションの重要性は今後もますます高まってくると思われる。また、これらの音楽系ゲームは一般の人だけでなく、実際の楽器の演奏を得意とするミュージシャンをもゲームセンターに取り込むほどの流行を見せた。特にコナミ社の「ドラムマニア」や「キーボードマニア」は、それぞれドラムやキーボードの演奏方法がほぼそのまま取り入れられており、得意とする楽器の腕前を一般に披露する機会を与えている。また、これらのゲームは複数人でのプレイが可能であり、音楽的なコラボレーション(セッション) の場を提供する役割をもっている。このように、能動的に音楽を楽しみ、人に演奏を披露し、さらに他人と音楽でコラボレーションしたいという要求は非常に高くなっているが、現状では限られた場所でしかこのような機会が与えられていない。そのため、いつでもどこでも携帯型の楽器を用いて音楽を楽しみたいという要求が高まっている。
 そのような要求に対し、本研究で構築したモバイル楽器であるDoublePad/Bassは、タッチパネル式のPDAを2個用いて両手入力により演奏を行うソフトウェアである。エレクトリックベースの奏法を想定し、左手により音程を決め、右手により発音するようになっているため、本物のベースを演奏できる人が場所を問わずに腕前を披露できる。また、ハンマリングやスライドといった演奏技術をタッチパネル上で実現する仕組みを提供し、練習により高度な演奏が行なえるようにした。さらに、楽器演奏の初心者でもある程度の演奏が行なえるように、簡易演奏モードを用意した。
 DoublePad/Bassは左右の手にそれぞれのPDAを割り当てて演奏するため、現実の楽器に似た奏法、パフォーマンスを実現している。本システムを用いることで、いつでもどこでも気軽に演奏でき、同じように演奏している人たちと気軽にコラボレーションできる。屋外で道行く人たちと即興演奏を行なう本システムのようなアプリケーションは、今後のモバイルアプリケーションの大きな柱となる可能性を秘めていると考えられる。

   図-4 DoublePad/Bassの演奏風景
[関連発表論文]
  1. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“DoublePad/Bass:2つのPDAを用いた携帯楽器,” 情報処理学会研究報告(音楽情報科学研究会 2001-MUS-41),Vol.2001,No. 82,pp. 77-82 , Aug. 2001.
  2. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“2つのPDAを用いた携帯型エレキベースのためのインタフェース,” 日本ソフトウェア科学会第9回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2001),pp. 185-190, Dec. 2001.
  3. Tsutomu TERADA, Masahiko TSUKAMOTO, Shijiro NISHIO, “A Portable Electric Bass Using Two PDAs,” Proc. of First International Workshop on Entertainment Computing (IWEC2001) (May 2001, to appear).

5.社会貢献に関する業績

5.1 教育面における社会貢献

5.1.1 学外活動

近年早急な国際化への対応が、求められているものの一般教育を取り巻く状況にさえ未だ多くの困難を抱えている発展途上国においては、高等教育機関における教育基準を国際基準に準拠するまでにその質を向上させるという課題に自助努力によってのみ取り組むことは容易ではない。ラオス人民民主共和国で1996年に新設されたNational University of Lao P.D.R.の建築学科においては、建築高等教育の一環として初めて研究活動に取り組むことを始めているが、しかし現地には経験豊富な教授陣が欠けていることからその進度は遅く、外的な支援を要請せざるを得ない状況にある。本部門では、これまでラオス建築・都市空間に関する研究を継続的に実施してきたことから、ラオス国立大学より同大学関連部局の教師陣及び学生らに対する教育支援を要請され、1996年12月に現地での特別講義や資料提供、研究助言などによる人材育成の支援を行っている。本年度は現地セミナー(12月5日~10日)を実施し、高等教育機関のあり方と研究活動の促進について、アメリカや日本の歴史的経緯や研究者の役割についての具体的事例を挙げながらの講義を実施し、研究活動を進めていくうえで必要となる諸条件を具体的に説明を行った。これに対する質疑応答では、ラオスでの研究を妨げる諸条件の分析や、緊急にとられ
るべき方策等についてラオス側参加者による活発なやりとりが見られ、これまでの実績を含めた一連の支援活動は先方に大きく評価されている。今後の支援課題として、研究活動の活性化を図るために、日本との協力関係において先方が継続的に研究指導を受けられるシステムの構築を睨みつつ、研究活動の啓発を進めるための諸活動を継続していくことを予定している。(吉田)

  図-5 ラオス国立大学に於けるセミナー風景

5.1.2 研究部門公開

2001年4月30日の銀杏祭、および11月3日の大学祭において、図学CAD教室(全学共通教育機構B棟3F)の外部公開を行った。午後1時から4時の間、パネル展示コーナーとCAD装置に実際に触れて演習や立体視を体験できるコーナーを開設し73名の見学者を得た。

5.2 学会活動

5.2.1 国内学会における活動

国内では、日本図学会会長として、次期会長を選出し、年各1回開催の大会(平成13年5月 於青山学院大学 青山キャンパス)、および年11回開催の理事会等の会務を支障なく引継いだ後、日本図学会顧問に就任し、学会の運営に貢献している。また、日本建築学会建築教育委員会委員および教育と資格制度小委員会委員長として、国際的な建築家資格の基礎となる建築設計教育の在り方に関する検討に参画している。 (吉田)
情報処理学会放送コンピューティング研究グループおよび情報処理学会情報家電コンピューティング研究グループの運営委員として、情報処理学会における新しい分野の研究活動を推進している。(寺田)

5.2.2 論文誌編集

International Society for Geometry and Graphics の論文誌Journal for Geometry and Graphics (年2回発行)の編集委員会委員を務め、発刊に貢献している。

5.2.3 国際会議への参画

10th International Conference on Geometry and Graphics(July 2001, Kiyv National University of Building and Architecture, Kiyv, Ukraine)の組織委員会委員を務めている他、2001年7月に大阪(ホテル大阪ガーデンパレス)で開催した第5回日中図学教育研究国際会議の日本側組織委員会委員長として、開催業務を総覧した。(吉田)
5.2.4. 学会における招待講演・パネル
該当なし

5.2.5 招待論文

該当なし

5.2.6 学会表彰

澤井里枝,Loh Yin Huei,寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,電気情報通信学会 第12回 データ工学ワークショップ(DEWS2001),優秀論文賞.
寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,日本ソフトウェア科学会 第9回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ,対話賞.

5.3 産学連携

5.3.1 企業との共同研究

寺田努,ユビキタス情報基盤,平成13年10月1日~平成14年3月31日,日本電気株式会社 インターネットシステム研究所との共同研究.
寺田努,屋外向け装着型情報共有システムの研究,平成13年9月1日~平成14年3月31日,インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス株式会社との共同研究.

5.3.2 学外での講演

   該当なし

5.3.3 特許

   該当なし

5.4 プロジェクト活動

寺田努,LBS(Location Based Service)検討会 委員 平成14年1月~3月.
寺田努,ISO/TC211コントリビューター 平成14年2月~

5.5 その他の活動

5.5.1競争的資金の獲得

  1. 大野健、吉田勝行「体験的課題追求型授業科目の構築」 31,467,000円 大阪大学平成13年度重点経費
  2. 吉田勝行、稲葉武彦、加藤道夫、早坂洋史「SCSによる全学共通教育特別教育科目“マルチメディア時代の図学」 676,000円、平成13年教養教育改善充実経費
  3. 寺田努「移動型アクティブデーターベースを用いた地理情報システムに関する研究」1,200,000円、平成13年度文部科学省研究費
  4. 寺田努「フォルダリングの数学的基盤に関する研究」11,249,000円、平成13年度科学技術振興調整費

5.5.2 大阪大学全学委員会委員

  1. 先端科学技術共同研究センター運営委員
  2. キャンパス計画委員会委員
    (以上吉田)

5.5.3 他大学非常勤講師

  1. 関西大学「建築CAD演習」工学部建築学科
  2. 摂南大学「建築形態論」大学院工学研究科建築学専攻
    (以上吉田)

2001年度研究発表論文一覧

著書

  該当なし

学術論文誌

国際会議会議録

  1. Tsutomu TERADA, Masahiko TSUKAMOTO, Shijiro NISHIO, “Active GIS: A Geographic Information System Using Active Database Systems,” Proc. of Symposium on Asia GIS 2001(CD-ROM), Jun 2001.
  2. CHITHPANYA Soukanh, KOMOTO Junko PHONETHIP Pathana, PHOMMAKHOT, Manichan YOSHIDA Katsuyuki “Education for Teachers of Fine Arts in Primary and Secondary Schools in Lao P. D. R.” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp16-21, Jul.2001.
  3. CHIBANA  Koukichi, YOSHIDA Katsuyuki, TAKEYAMA Kazuhiko, “Students' Professional Orientations in the Different Two Programs of Architectural Major” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp27-32, Jul.2001.
  4. PHONETHIP Pathana, KOMOTO Junko, CHITHPANYA Soukanh, OUTHENTHAPANYA Dasack, YOSHIDA Katsuyuki, “Overview of Geometry and Graphics Education Leading to Architecture Program in LAO P. D. R.” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp45-50, Jul.2001.
  5. KOMOTO Junko, YOSHIDA Katsuyuki, “Correlation of Accreditation Criteria with Practice on Graphics and/or Drawing in Architectural Education” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp77-82, Jul.2001.
  6. ABE Hirokazu, YOSHIDA Katsuyuki, “Perspective Drawing Course in the Architectural Division, School of Engineering, Osaka Univ.” Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp204-209, Jul.2001.
  7. Rie SAWAI, Masahiko TSUKAMOTO, Yin Huei LOH, Tsutomu TERADA, and Shijiro NISHIO, “Functional Properties of Information Filtering,” Proc. of the 27th International Conference on Very Large Data Bases (VLDB2001), pp. 511-520 , Sep. 2001.
  8. Tsutomu TERADA, Masahiko TSUKAMOTO, Shijiro NISHIO, “A Portable Electric Bass Using Two PDAs,” Proc. of First International Workshop on Entertainment Computing (IWEC2001) (May 2001 to appear).
    口頭発表(国内研究会など)
  9. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“移動体計算環境におけるアクティブデータベースの動的トリガグラフ構築機構の実現,” 情報処理学会研究報告(モバイルコンピューティングとワイヤレス通信研究会 2001-MBL-17),Vol. 2001,No. 46,pp. 39-46 , May 2001.
  10. 加下雅一,寺田 努,塚本昌彦,原 隆浩,西尾章治郎,“データベース放送システムにおける移動型クライアントのための問合せ処理方式,” 情報処理学会研究報告(モバイルコンピューティングとワイヤレス通信研究会 2001-MBL-17),Vol. 2001,No. 46,pp. 47-54, May 2001.
  11. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“移動体計算環境におけるアクティブデータベースのシミュレーション環境について,” 情報処理学会研究報告(データベースシステム研究会 2001-DBS-125(1)),Vol. 2001,No. 70,pp. 351-358 , July 2001.
  12. 澤井里枝,塚本昌彦,寺田 努,Loh Yin Huei,西尾章治郎,“フィルタリング関数の合成とその性質について,” 情報処理学会研究報告(データベースシステム研究会 2001-DBS-125(2)),Vol. 2001,No. 71,pp. 61?68, July 2001.
  13. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“モバイル環境におけるアクティブデータベースを用いた地理情報システムについて,” 地理情報システム学会 空間IT分科会 第1回空間ITワークショップ,Vol. 2001,No. 1,pp. 26--33 (July 2001).
  14. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“DoublePad/Bass:2つのPDAを用いた携帯楽器,” 情報処理学会研究報告(音楽情報科学研究会 2001-MUS-41),Vol.2001,No. 82,pp. 77--82 , Aug. 2001.
  15. 塚本昌彦,寺田 努,中村聡志,“ツカモトバンドによるモバイル楽器の実演,” 日本ソフトウェア科学会第9回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2001),デモ発表 , Dec. 2001.
  16. 寺田 努,塚本昌彦,西尾章治郎,“2つのPDAを用いた携帯型エレキベースのためのインタフェース,” 日本ソフトウェア科学会第9回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2001),pp. 185?190, Dec. 2001.
  17. 澤井里枝,塚本昌彦,寺田 努,Loh Yin Huei,西尾章治郎,“フィルタリング関数におけるセレクションとランキングの性質について,” 情報処理学会データベースとWeb情報システムに関するシンポジウム” (DBWeb2001) , Dec. 2001.
  18. 吉田勝行,早坂洋史,加藤道夫, “SCSを用いた図形科学教育の試みとその評価” 全学共通教育機構特別科目「マルチメディア時代の図学」の実施結果に対する評価と体験的課題追求型授業化に関する研究会, Feb.2001.
  19. 阿部浩和,吉田勝行,“体験を重視した図学実習課題の構成” 全学共通教育機構特別科目「マルチメディア時代の図学」の実施結果に対する評価と体験的課題追求型授業化に関する研究会, Feb.2001.

解説・その他

  1. 寺田努,G-XMLを利用したモバイルサービスの実現,G-XML国際統合版解説書,掲載予定

2001年度特別研究報告・修士論文・博士論文

博士論文

該当なし

修士論文

該当なし

卒業研究報告

  1. Noun Viraneath 「阿倍野阪南町における歩行空間の形態構成」, 大阪大学工学部建築工学科2001年度卒業論文, February 2001.

作品

  1. 全学共通教育機構発行 広報誌 「共通教育だより」 NO.15,16,17,18号各表紙構成
  2. 全学共通教育機構発行 「創造と実践」第2号表紙構成
  3. サイバーメディアセンター発行 「サイバーメディアフォーラム」 NO.2 表紙構成
  4. サイバーメディアセンター発行 「年報」 2001年度表紙構成
  5. 第5回日中図学教育研究国際会議プロシーディングス 表紙およびロゴマーク構成