大規模計算機システム利用者報告
サイバーメディアセンターにおける IRIS可視化画像の利用
辻 史郎(長崎総合科学大学工学部 電気電子情報工学科)
私は長崎総合科学大学 電気電子情報工学科の辻 史郎と申します。
私がコンピューターと初めて遭遇したのは、1964年頃にHP社のBASICマシーンだったと記憶している。学生時代は計算尺とタイガー手回し計算機、印刷は青焼きの時代に突然コンピューターが出現して、それを使いこなすのは大変だった。その後数年は入力方式にテープ、主記憶はドラムで数年解析した。やがて、阪大計算センターを最初に利用し始めたのは19787~1979だったと記憶している。当時は何千枚のIBMカードをケースに長崎より寝台車で13時間かけて解析に来ました。その当時の解析は、総合誘導結合を用いた中間周波増幅回路に能動素子を用いることにより、インダクタンスを用いずに集積回路化に適した回路構成とすることを提案し、OPアンプ1個とCR二重T形回線の帰還回路を用いた低域通過形と高域通過形増幅フィルタを考案し、これを継続接続して中間周波増幅回路し、これに周波数変換を用いて簡単化し通過域で、ほぼテェビシェフ近似をもつ双峰特性とするような設計公式と設計図から中心周波数455KHzの場合の設計解析であった。この時代のセンターはカード穿孔機が混雑し、ジョブ数も多く解析時間と帰りの列車時刻を気にしながら解析していた。しかし、何故か時が数年間すぎてしまった。
つぎに、センターを利用したのは1985年頃、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋の位置決定に、133Ba及び173Csのガンマ線の後方散乱を利用する方法について検討し、解析した結果、コンクリート表面からあまり深くない位置に埋設されている鉄筋の深さ、太さ、間隔については精度宵測定が可能となことがわかった。探査はコンクリート表面に対しガンマ線ビームを角度90°または45°で入射させ、散乱角度135°の後方散乱ガンマ線をシンチレーション検出器により計測したことにより、後方散乱ガンマ線の最適条件の解析に再度長崎から来ることになった。
この時は、まさか!今日まで、月1回の割合でサイバーメディアセンターに解析に来るとは夢にも思わなかった。もっと簡単に可視化画像処理が完成すると考えていた(このとき、ACOSはバージョンアップされていた)。 その内容は鉄筋コンクリートから後方散乱ガンマ線強度の計算で、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋を測定する場合、測定対象となる物体(鉄筋)は表面よりある深さの場所に位置していると考えなければならない。ガンマ線源と検出器にはともに50*50*5mmの狭いコリメータ(鉛)を取り付けているので、空気、その他による散乱ガンマ線の回り込みによる測定への影響は考えない。また、空気による吸収、散乱等の影響は無視するものとする。理論計算におけるガンマ線、検出器の幾何学的配置をFig.1に示した。
検出する一回後方散乱ガンマ線はコンクリート表面より深さLDで散乱したものとすると、この幾何学的配置での測定条件は、ガンマ線とビームと被測定物質(鉄筋)との相対位置変化により、
- 入射側に被測定物質が存在し、反対側にない場合。
- 入射側、反射側ともに被測定物質が存在する場合。
- 入射側に被測定物質がなく、反対側に存在する場合。
以上の三つの場合について計算式が必要であるがここでは省略する。Fig.1を簡略化し、(1)、(2)、(3)の測定条件についての略図をFig.2に示す。
コンピューターシュミレーションに必要な諸パラメータは、つぎのような実験方法によって測定した。まず、後方散乱ガンマ線の測定を利用する幾何学的条件はいくとおりかあるが、ガンマ線源として、137Cs,133Baを用い、ガンマ線ビームを鉛のコリメータにより、50*50*5mm長方窓に絞って鉄筋コンクリート試料表面に角度90°で入射し、後方散乱ガンマ線のみを試料面と45°の角度で、50*50*5mm(鉛)コリメータを取り付けた2Φ*2Nal(TI)シンチレーション検出器で計算した(ただし、10mmΦコリメータも使用した)。角度設定については、散乱ガンマ線及び多重散乱ガンマ線の影響を少しでも無視できる幾何学的条件を考慮した。入射角度45°、散乱線の取り出し角度90°についても試みた。鉄筋コンクリート試料は500*120*120mmのコンクリートブロックの中に、太さ25mmΦの異形鉄筋3~4本をコンクリート表面から20mm殻40mmの深さに120mmの間隔で埋設してあるものを使用した。
実験は、ガンマ線源、検出器及び両コリメータを固定した状態で、コンクリート表面に密着させながら、5~10mm間隔で、コンクリート試料を右側から左側方向に平行移動して、各点における後方散乱ガンマ線強度の測定を行った。この実験データを基に理論式を構築し、モンテカルロ法によるガンマ線の後方散乱の問題解析を試みることにした。実験のガンマ線源に科学技術計算ライブラリASL,MATHLIBを利用して、乱数をMBq:3.7*107+E7個の発生させ入射側(約20課程)、後方散乱側(反射側20課程)の透過、散乱、吸収計算の光子数(ガンマ線源)としてACOS,SX4,SX5での解析を試みた。その方法は0から1の間で一様乱数になるようにとり、乱数の中から1個を選び出し、これを計算し光子がコンクリート、鉄筋を透過したか、吸収されたか、散乱されたかを確かめ光子が散乱された場合に散乱光子の進行方向を一定条件のもとに解析した。
(詳しい解析方法、散乱過程についてはここで省略いたします)ACOS、SX4では時間の短縮とすばらしい収束結果が得られたが、SX5での解析結果はまだ出ていない。
つぎに、実験結果と理論式解析の一致を見たので、その可視化を試みた例をFig.3、Fig.4で示す。Fig.3は133Ba線源約185MBqを使い、そのビームを90°の角度で散乱体(コンクリート中の鉄筋25mmΦ、コンクリート表面から深さ20mm、間隔100mm、散乱点の深さ120mm)にあって、135°の角度で後方ガンマ線のうち175-260KeVのエネルギー範囲を検出したグラフである。この計測結果を基に理論式をモンテカルロ法で解析し、IRIS
Explorerによる高速三次元可視化処理した画像がFig.4である。この画像処理ができることにより、コンクリート中の鉄筋の深さ、鉄筋の太さが、予め得られたデータと比較して検出できる。