業務及び研究の報告
マルチメディア言語教育研究部門
Multimedia Language Education Division
1.部門スタッフ
教授 細谷行輝
略歴:1975 年3 月弘前大学人文学部文学科卒業。1977 年3 月東京都立大学大学院人文科学研究科独文学専攻修士課程修了。1977
年4月大阪大学言語文化部助手、1980 年7 月同講師、1988 年1 月同助教授、1999
年4 月同教授。2000 年4 月大阪大学サイバーメディアセンター教授。日本独文学会、ドイツ語情報処理研究会、冠詞研究会各会員。
助手 堀井祐介
略歴:1990 年3 月大阪外国語大学外国語学部デンマーク・スウェーデン語学科(デンマーク語専攻)卒業。1992
年3 月大阪大学大学院言語文化研究科博士前期課程修了。1998 年10 月大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。1995
年4 月~非常勤講師(大阪外国語大学、デンマーク語、アイスランド語)。1998
年4 月~大阪大学言語文化部言語科学実験部門助手。2000 年4 月~大阪大学サイバーメディアセンターマルチメディア言語教育研究部門助手。日本アイスランド学会、日本文体論学会、大阪大学言語文化学会、英語コーパス学会各会員。
2.研究概要
マルチメディア言語教育研究部門では、主として、外国語教育改革の一環として、学習効果を飛躍的に高めるため、マルチメディアによる外国語教育システム、すなわち、CALL*教育システムを提供する。CALL
教育システムに留まらず、「インターネット等活用授業」を実現するため、Windows
教育システムによる遠隔授業形式の研究を行なう。WEB 教材作成等、マルチメディアコンテンツ作成のための基礎的研究を行なう。意味形態論の自動翻訳への応用を教育研究活動の柱とする。
*CALL[コール] : Computer Assisted LanguageLearning の略称で、「コンピュータ支援外国語学習システム」を意味する。これまでの画像・音声・文字データそれぞれを個別に利用する学習ではなく、これら3
つを組み合わせたマルチメディア語学教材での学習環境を提供する。また、このマルチメディア学習環境により、教材によっては、まるでその国にいるかのような臨場感あふれる学習が行え、インターネットを利用することにより世界中の情報を学習に利用することが出来る。コンピュータ上に自分の環境を持ち、個別に学習履歴を残すことが出来るので、これまでのようなクラス全体で同じ教材を学習する学習方法だけでなく、利用者が自分のペースで個別に学習を進めることも出来る。教官と学生の関係については、電子掲示板、マイク・ヘッドフォンなどを利用し、教官と個々の学生が、また教官と受講学生全体が、リアルタイムにあるいは時間をずらして双方向にコミュニケーションを取ることが出来る。
3.研究課題:CALL 教育システム
3.1 Windows 教育システム関連
3.1.1 Windows システムでの個別ユーザ毎の環境設定
現在、市販の授業支援ソフトを利用し、学生の出席確認、教材配布等を行っているが、授業での教官からの要望(遅刻する学生への対応や、個々の授業に応じた環境設定等)に応えるには不十分である。この問題を解決するために、Windows2000
のActive Directory に登録されたユーザー情報を元にユーザーのログオン時間から出席・欠席・遅刻を判断し、かつユーザー毎の受講情報と結びつけることにより、個々の学生の学習環境をより使いやすいものにすることを目指す。
3.1.2 動画転送装置とWindows 端末システム管理ソフトの統合化
現状では、通常のTCP/IP で動画を50 台規模の端末へ流すのには限界がある。そのため、CALL
教室では専用線を持つ動画転送装置を導入し、ビデオその他の動画を流しているが、CALL
システムを利用する教官の立場からすると、通常のWindows 端末でのシステム管理ソフトの操作に加えて、動画転送装置の操作までも行わなくてはならず、時には授業進行に影響がでることもある。そこで,ネットワークでの伝送技術の改良により、システム管理ソフトに動画転送機能を取り込めることが望まれる。
3.1.3 パスワード同期システム
大規模ユーザー管理においてはUNIX 系のシステムに一日の長があるが、末端のユーザー環境を考えるとWindows
系の存在を無視することは出来ない。現在、CALL システムでは、Windows 2000
のActive Directory でユーザー管理を行っているが、情報メディア教育研究部門(ECS)の提供するユーザー管理システム(UNIX
系)との相互乗り入れを早急に実現し、とりわけパスワードの同期システムを完成させることにより、利用者の負担を軽減する必要がある。
研究課題1:コンテンツ作成支援システムの確立
大学内に限らず、社会一般にネットワークが広がる現状において、大学の持つ知的資産をネットワーク上で利用できる形にする事には大きな意味がある。すでに、当部門では、WEB対応のマルチメディアコンテンツの開発並びにこのコンテンツのWEB 配信システムについて研究を重ねてきたが、コンテンツの開発には、多くの有能な人材と高度な設備が必要になるため、マルチメディア教材作成にあたって教官をサポートする全学的な支援体制を確立する必要がある。
研究課題2:遠隔授業システムの確立
21世紀の授業形式として、遠隔授業・遠隔学習システムが導入されつつあるが、このシステムは、無論、大学内に限らず、生涯教育の一環として、多くの活用方法が考えられる。「いつでも、どこでも」、時空の制約を受けずに、ストリーミングビデオやブロードバンドによる動画教材を中核として、学習者個々人のニーズに木目細かく対応できるシステムを確立する。
研究課題3:WEB 対応辞典の開発
外国語を学習する際に、辞典は、不可欠であるが、辞典をオンライン化し、マルチメディア化することにより、従来の辞典の範疇を超えた、WEB
対応知的総合辞典の開発を進める。
研究課題4:意味形態論の自動翻訳への応用
従来の自動翻訳とは全く異なる観点から、語感を分析する意味形態論を自動翻訳へと移植することにより、高品質の翻訳結果を目指し、ここで得られる文法解析、意味解析等の成果を、マルチメディアによる外国語学習に応用する。
研究課題5:外国語コーパスを利用したデータベース開発研究
英語やドイツ語等、インターネットにて提供される外国語データを分析・処理することにより、コンコーダンスを作成したり、基礎語彙を確定することにより、外国語学習のより効果的な環境を開発する。
4.研究成果と今後の展望
2000 年4 月に発足したサイバーメディアセンター・マルチメディア言語教育研究部門では、2000
年3 月末に新規導入されたCALL 教育システム(2 教室)を、数週間後の2000 年4
月から稼動させなければならない、という過酷な条件の中、暗中模索を繰り返しながら、CALL
教育システムの維持管理に文字通り寝食を忘れることとなった。その結果、一定の成果が見られ、多くの教育機関からの見学依
頼が相継いでいる。市販のアプリケーションのみならず、21 世紀を見据えた場合、大学独自のコンテンツを自ら開発し、これをライセンス供与していく方向が最も望ましいが、この種の開発を実現する設備も、不十分ながら当部門には備えられており、見学者にあっては,CALL
教室の設備のみならず、コンテンツ開発環境に関する関心も高い。今後は、その意味において、誰もが容易にマルチメディアコンテンツを作成できるシステムソフトの開発に力を注ぐとともに、コンピュータを用いた授業を真の意味で支援する、現場の教師のニーズに合致した授業支援システムの開発に取り組む。
4.1 研究成果要覧
招待講演・パネルディスカッション等21.01.2000 「CALL 教育システムの可能性---大阪大学・言語文化部の実例」,(慶應大学)01.12.2000
大阪大学講演会:「21 世紀の大学教育」パネルディスカッション:「大学における授業改革を考える」,(大阪大学)09.02.2001
「CALL(Computer AssistedLanguage Learning)の可能性」,(東工大)23.03.2001
「遠隔教育セミナー:大阪大学における遠隔授業の可能性」,(九州大学)
5.研究発表論文一覧
論文
- 「CALL 教育システムの可能性---大阪大学・言語文化部の場合---」,『Symposion』(ドイツ語学文学研究会),第15
号,2000,pp.13-24.
- 「CALL 教育システムの可能性と大阪大学言語文化部での実例」慶應大学語学視聴覚教育研究室の「らぼ通信」らぼ通信(2000
年号No.77)
- 「古ノルド語神話文献資料データベースの作
成と活用」,『英語コーパス研究第8 号』,2001
年3 月刊行予定
5.1 その他
- 「コンピュータによる文献資料の分析方法―「エッダ詩集」のthe Heroes ?“,『言語文化研究27』(大阪大学言語文化部紀要),2001年3
月刊行予定
- 「古ノルド語-sk 動詞について-エッダ神話詩での実例分析-」,『IDUN 14』(大阪外国語大学デンマーク・スウェーデン語学科研究室紀要),2001 年3 月刊行予定
- 『世界民族事典』,弘文堂,東京, 2000(平成12)年,地域・国家篇「アイスランド」,p.953口頭発表(国内学会・研究会)
- 「古ノルド語神話文献資料コーパスの活用」,英語コーパス学会,山陽学園大学,2000
年4月22 日